肉体と肉体がぶつかり合う人類最速のレース、競輪。「KEIRIN」の名で五輪競技ともなった日本発の世界的スポーツでもある。東京五輪では競輪のトップ選手が自転車トラック競技の代表に名を連ね、メダルの有力候補に挙げられている。

 その醍醐味を縦横に語っているのが堤哲氏、藤原勇彦氏、小堀隆司氏、轡田隆史氏である。彼らの著書である『競輪という世界』から一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目。後編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

スーパースター&レジェンド列伝

 競輪界は絶えずスター選手を輩出し、ファンもまた、スター選手の活躍に歓声と拍手を送り続けてきた。

 まず現在の競輪界をリードするスーパースターたちを紹介し、続いて、競輪の歴史を築いてきたレジェンドたちの軌跡をたどってみたい。

 今(2020年)トップの座にあるのは、先にも紹介した2019年12月のグランプリに出場したS級S班に属する9人だ。

 ことに注目されるのは、新型コロナウイルスの感染拡大により延期されてしまったが、東京オリンピックでもメダルが期待される新田祐大と脇本雄太である。国内の競輪でも人気・実力ともにトップクラスを維持すると同時に、権威ある国際競技のワールドカップや世界選手権などでも頂点を目指す選手たちである。

©iStock.com

 オリンピック競技の「ケイリン」と公営競技の「競輪」の違いは、後で詳しく述べるが、「ケイリン」のルーツである競輪の国でありながら、日本はまだこの競技で金メダルが取れていない。長く五輪の舞台で低迷してきたジャパンに革命をもたらしたのは、リオデジャネイロオリンピック後に日本が新たに招聘したフランス人コーチのブノワ・ベトゥ(彼が行った改革は第4章で詳しく述べる)だ。ブノワの指導により、ナショナルチームに所属する選手たちは着実に力をつけ、国際大会ばかりか、本職の競輪においても格式高いグレードレースでも優勝するなど活躍。かつてはケイリンの練習に打ち込むと競輪で勝つことが難しくなると揶揄された時代もあったが、ナショナルチームのメンバーが人気、実力ともに上位を占めるようになった今では、競輪選手の中にも従来のトレーニングを見直す動きが広がってきている。それが競輪界全体のレベルを底上げし、より白熱したレースが見られるようになったのは好ましいことだ。