今、女性芸人の世界が揺れている。女性芸人といえば、当たり前のように「ブス」「デブ」「非モテ」をいじられ、そこで強烈なインパクトを残すことが成功への足がかりとされてきた。
しかし、持って生まれた容姿や未婚か既婚かどうかの社会属性などを「笑う」ことに対して、今世間は「NO」という意思表示をし始めている。「個人としての感覚」と「テレビが求めるもの」、そして「社会の流れ」。3つの評価軸の中に揉まれながら、女性芸人たちは新たな「面白さ」を探し始めている 。
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芸歴10年を数える女性芸人コンビ、Aマッソ。いわゆる「女性芸人らしさ」を全く武器にせず、ネタの精度だけで勝負してきた彼女たちは時に「尖りすぎている」と無理解に晒されてきた。
この度、Aマッソの“頭脳”、加納愛子が初のエッセイ集『イルカも泳ぐわい。』(筑摩書房)を上梓。孤高の女性芸人が初めてその心の内を言葉にしている。また一時遠ざかっていた『THE W』にも今年出場、見事決勝へと勝ち上がった。彼女が迎えつつある様々な「変化」を聞く。(全2回の1回目/2回目を続む)
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芸風への理解者は増えたと思いますか?
――以前雑誌で対談されていた放送作家の白武ときおさんがAマッソさんのことを「今どき女でお笑い芸人やって、しかもストロングスタイルでやるって超ドM」「普通6~7年やって結果出なかったらスタイルを曲げるわけですよ。目の前のお客さんにウケるようにポップにしたりとか。それを、理解者も増えないままずっとやってこれたのは奇跡だな」とおっしゃっていて。3年前ですね。
加納 (笑)。
――当時に比べて理解者は増えたと思いますか?
加納 今までは、わりと悪意込みのダメ出しというか「そんなんやってても売れへんし」みたいな、敵のくせにアドバイスしてくるみたいなイメージやったんです。でも、最近は愛のある人からの「ほんとに、ほんとにもっとこうした方がいい」っていう、「説教」から「アドバイス」に変わったかもしれないですね。
同じことをずっと言ってくれてるけど、私らの中でとらえ方が「やかましいこと言ってきてる」から「ほんまにうちらのことを思って言ってくれてる」って変わった。受け取り方も変わったし、周りの環境も変わった。
――「悪意のある説教」……嫌ですね(笑)。
加納 私、仲良くない後輩に説教してくる人の気持ちが全然分からなくて。仲いいから言うのは分かるけど、劇場とかですれ違った先輩が「ああ、この前これ見たよ。あれ、よくないよ」みたいなやつ。そういうのはちょっと芸歴的にもなくなってきましたね。10年になったので。
今年は死ぬほどやりやすくなりました
――「面白い女、腹立つ」というか「女が面白いことをしようとすることに腹立つ」という感情は、世間的にもあるような気がします。女性芸人が女性芸人の枠ではなく「芸人」として見てもらおうとする時に、急にその刃を向けられるような。加納さんも「女芸人らしい」振る舞いを求められ続けてきたのではないでしょうか。
加納 たぶん……それこそ昔とはムチャクチャ変わってて。うちらは10年しかやってないですけど、5年前と比べて、こと今年で言うと、死ぬほどやりやすくなりました。だから、今は全然、文句を言う環境でもないかな。
チャンスもあるし、多様性も芸人によって認めてくれてるし。……あんまりこんなん言いたくないですけどね。文句言っときたいんですけどね(笑)。