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「1年前なら、黒川次官を1年、その次に林という選択はあった。2016年夏の時点でそれはなくなった。お願いだろうと、命令だろうと、結果は同じ。黒川次官を受け入れたことで、法務省人事への政治の介入を許した。そういうソフトな手口で来ることもあるな、と心配していた」
16年8月26日、林は周辺関係者にそう語った。林にとって、自身を16年夏の時点で法務事務次官にする人事は、法務・検察の総意だった。黒川は、稲田から「黒川を次官にしたい」との官邸の意向を伝えられたときに、受けるべきではなかった。それが、法務省幹部として採るべき道だった、と林は考えていた。
真の狙いは「検察に対するグリップ」か
「今回の人事で、黒川はこれから法務・検察の中で力を失う。政治との癒着があるとは思わないが、政治が選んだ次官と皆が受け取る。官邸には、黒川の苦労に報いる、という思いもあるだろうが、真の狙いは『検察に対するグリップ』ではないか。1年後に自分が次官になれば、次の大きな異動、つまり検事総長の交代人事の折衝を、自分がやることになる。菅官房長官が、稲田を飛ばして黒川を西川の次にする、という介入をしてくる可能性はないのか。そのときは、検事総長人事への介入として大騒ぎになる」
林は本気でそう心配していた。そして、黒川と林の間には、深い溝が刻まれた。