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日本を愛し、日本に愛された昭和の名レスラー…“ヘンなガイジン”デストロイヤーの知られざる最期

『忘れじの外国人レスラー伝』より #1

2020/12/07
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悪魔の掟「テキサス・ルール」

 デストロイヤーにとっては最後のチャンスである。彼は好んで行なう「テキサス・ルールなら必ず力道山をやっつけてやる」と豪語していた。(中略)10分ころ、力道山の空手が一閃したあたりから、がぜん荒れ模様となり、デストロイヤーが力道山の跨間をこぶしで一撃してから殺気を帯びてきた。いよいよ狂暴性をあらわしたデストロイヤーはとび蹴り、こぶし打ちで力道山をさんざんに痛めつけ、ついに力道山の前額部は割れて血をふき出してしまった。

 十五分経過デストロイヤーは自分のコーナーよりで、得意の四の字固め(フィギュア・4・レッグ・ロック)にはいった。うまいものである。さすがの力道山ものがれる術(すべ)はなかった。“ウオッウオッ”と猛獣の咆えるようなうめき声をあげる。まったく痛そうである。(中略)レフェリーも「リキ参った?」を連発して力道山の反応をわずかでも見落すまいと真剣である。三分、四分「リキ頑張れ。場外へのがれろッ」と満場は騒然。アナウンサーが「お坐り下さい。お坐り下さい」と叫びあご紐をかけた警官がリング間近かにつめかけて、デストロイヤー目がけて密柑を投げる観衆を制止する。ピッピーと警笛がなる。(中略)

 最後の力をふり絞った力道山はついにロープの下を潜って、足をからみあったままリング下へ転落した。「ワッ」と喚声をあげて観衆は総立ち、カメラマンがどっと駈けよる。レフェリーは「十五、十六」と大きいゼスチュアでカウントをとる。ついに両者ともカウント・アウト。(中略)凄まじい死の血闘二十一分二十五秒。力道山に死の恐怖を与えたデストロイヤーの“四の字固め”ワナにかかったイタチさながらの窮地におちいって、数分間よくこれに堪えて、カウントアウトを狙ってリング下にたどりついた強気の力道山。ともに賞讃すべき“悪夢をみるような一戦”であった。(『プロレス&ボクシング』64年1月号)

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 通常の3カウントのピンフォールはなく、ギブアップかKOのみで勝負がつくテキサス・ルール(時間無制限1本勝負)でおこなわれたこのタイトルマッチは、デストロイヤーの足4の字固めがかかった状態で両者とも場外に転落。そのまま両者カウントアウトの引き分けとなった。これで力道山とデストロイヤーのシングルマッチでの対戦成績は4戦1勝1敗2引き分けのイーブンとなった。ついにこの闘いに完全決着がつくことはなかった。

力動山とデストロイヤーの因縁

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 シリーズ最終戦(12月7日=浜松)では、力道山&グレート東郷&吉村道明対デストロイヤー&バディ・オースチン&イリオ・デ・パオロの6人タッグマッチという形で両者にとっては最後の対決がおこなわれた。その翌日の12月8日、力道山は赤坂のナイトクラブ『ニュー・ラテンクォーター』で暴漢に腹部を刺され、1週間後(12月15日)に入院先の赤坂・山王病院で死去。デストロイヤーは、力道山が生前最後に試合をしたレスラーとなったのだった。