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彼の身に何が起きていたのか?

 そんな看護師さんの声を最後にまた意識を失ったといいます。次に目が覚めた時には、奥さんと子供さんがベッドの脇にいて、無事だったことを泣いて喜んでくれたそうです。 

「ごめんね」と彼が言うと、奥さんが目に涙を浮かべて言いました。 

「パパは何も悪くないよ。トラックの運転手さんの信号無視だったのよ」

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「トラック? 信号無視?」そこで彼は事の顛末を聞いたのです。

 奥さんのお話では、彼は出勤途中に、信号無視のトラックに撥ねられて、救急車で病院に運び込まれました。そして、そこから3日間ほど意識がなかったのです。

 奥さんは子供を抱えながら病院に泊まり込んでいましたが、子供も疲れが出るといけないので、一度マンションに帰っていました。 

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子供が聞いた“パパの声”

 少し寝ようかと思ったその時に、突然子供が「あ、パパの声、お帰り」と言い出し、玄関に行くと、誰の姿もありませんでした。

 変な胸騒ぎがした奥さんは、エレベーターを待ちきれず、子供を抱えたまま非常階段を降りて、病院に駆けつけ病室に向かうと、丁度意識が戻った時だったようです。

 金田君は、実家に里帰りしていたのではなく、あの世に行っていたのではないかと言うのです。

 実は、彼の両親は数年前に亡くなっておられたのです。しかも、実家で食事をした際に集まった親戚の叔父さんや近所の人達は、皆さんお亡くなりになった方ばかりだったというのです。それに、子供さんはいるはずのない、彼の声を聞いているのです。

 金田君は私に言いました。 

「毎年お盆には、両親だけでなく、亡くなった人達は、この世に里帰りするんだよ」

 彼の家族は、毎年お盆にはみんなで仏壇に手を合わせるそうです。

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三木 大雲

文藝春秋

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