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「お母さま、申し訳ありません。不幸の罪お許しください」

 最期については国民新聞が詳しい。

蟲(虫)の息の中から 「お母様申譯(訳)ありません」 前夜・母堂と最後の語らひ

あわれはかなくも自刃した靖子嬢はさる11日以来、自宅においては母堂櫻子夫人をはじめ、兄具榮公に対し、ただ一言「申し訳ありません」と謝罪し、刑務所生活の衰弱した心身を憩える一方、予審中であるため、ひたすら謹慎し、家族以外の者には一切面会せず、懺悔の日を送っていたが、20日は死をもって一切を清算すべく既に覚悟したものか、同夜はいつになく深更まで母堂とともに最後の語らいをし奥8畳の部屋に入ったが、21日朝6時、令妹登校のため、櫻子夫人が準備に起床した姿を見届けた靖子は、少しの取り乱した様子もなく、寝衣を平常の和服にあらためて端座し、前夜走り書きに執筆したとみられる遺書を枕元に、同家備え付けの西洋カミソリを取り出し、自若として右頸部突き刺し、衰弱にふるえる右手に力を込め、頸動脈をかき切り打ち倒れた。この間、何人も知らず数分を経て、靖子嬢の部屋からただならぬうめき声が漏れてくるので、母堂櫻子夫人が駆けつけてみると、既に室内は鮮血に彩られ、「お母さまお母さま」と呼んでいるので、母堂は驚いて抱き起したが、この時は既に虫の息で手の施すすべもなく、ただかすかに「お母さま、申し訳ありません。不幸の罪お許しください」と言ったまま息絶えた。

靖子の自裁を報じた国民新聞

「よく死んでくれた」と語った兄の心境

 時事といい国民といい、まるで昔の武士の切腹のような書き方だ。実際、報知は「一糸亂(乱)れなき 見ごとなる自刃」という見出しを付けている。

 靖子をめぐる「上層赤化に活躍」(報知)、「學習院メンバーで 活躍した彼女」(時事)などの記事や、予審判事の談話を載せた新聞もあるが、印象が強烈なのは、国民に掲載された、家人を通じて出したという兄具榮の談話だろう。

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「『よく死んでくれた…』 令兄具榮公の涙語り」「家族一同謹慎している際です。私としては何事も申し上げられません。靖子のため、家名も華族として世間に顔向けのできぬこととなったのですから、自分としては靖子のとった態度をむしろ喜んでさえいます。よくやってくれた。しかし、このため社会が靖子に対して同情してくださることも、私としてはご遠慮願いたいほどの心境です」。こう言わざるを得なかった兄の心境はどんなものだっただろう。