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プレッシャーがない大会で伸び伸びと

 長いブランクがあり、先輩たちも歓迎してくれているけれど、そんなに期待はしていない。藤岡さんは気楽に大会に参加した。関東の大学の将棋部に入ると、4月の中~下旬の3週にわたって行われる個人戦に参加できる。棋力の制限や人数の制限はない。300人近くが参加する大規模な大会で、参加校のどこかの大学の施設を借りて行われる。負けたら敗退のトーナメント戦。上位10人が関東代表として学生名人戦に出られる。藤岡さんは、それを理解しないまま大会に参加した。久しぶりの大会は楽しかった。奨励会時代と違い、プレッシャーがないから伸び伸び指せる。

「思えば、奨励会時代は手が伸びてなかった。思い切って攻めることができず、無難な手、決断を先送りするような手ばかり指して負けていた」(藤岡さん)

 大会2日目、藤岡さんはベスト16まで進んで敗れた。てっきりもう終わりかと思っていたら、「学生名人戦の関東枠は10人だから、ベスト16で負けた8人でトーナメントをして、勝ち進んだ2人を関東9、10位として学生名人戦の代表にする」という。大会3日目の敗者復活戦で藤岡さんは勝ち進み、学生名人戦の関東代表に滑り込んだ。

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層の厚い東大将棋部で1年生ながらメンバーに

 次の日曜日からは今度は3週続けて団体戦。関東の大学将棋部で団体戦のメンバーになれば、入学早々6週連続で日曜日は大会が待っている。藤岡さんも、層の厚い東大で1年生ながらメンバーに抜擢された。

 関東の大学の将棋部は、A、B1、B2、C1、C2の5クラスに分けて春と秋に団体戦を実施している。A~C1までは、各クラス8チームで1チーム7人制。3週にわたって総当たりで対局する。原則として1つの大学から1チーム。プロの順位戦と同じような仕組みで、上位2チームが上のクラスに昇級し、下位2チームが下のクラスに降級する。そして、春季団体戦のA級上位2チームは9月の富士通杯の関東代表になる。その年の東大は、春季A級3位に終わって富士通杯の出場権を逃している。

 次の週は学生名人戦。土日の2日間にわたって、全国から各地区の代表32人が参加して行われた。会場はアマの全国大会でよく使われる、東京・浜松町のチサンホテルだった。「伸び伸び指す」「相手に気迫で負けない」。藤岡さんは、好きな米長邦雄永世棋聖の本にあったこんな言葉を自分に言い聞かせながら対局に臨んだ。

 奨励会時代と違い「迷ったら強気な手」が指せた。藤岡さんはベスト4まで勝ち進んだ。その4人はチサンホテルに宿泊し、翌日曜日に行われる準決勝に進む。

「そんなに勝てると思っていなくて、着替えも持ってきていませんでした。夜、三鷹にある学生寮に帰って着替えを取って、またチサンホテルに戻って泊まりました」

 翌日は藤岡さんの快進撃に喜んだ東大将棋部の先輩たちが10人も応援に来た。応援する人が対局者の周りを取り囲むのが学生将棋の文化だ。藤岡さんの優勝に先輩たちも興奮気味だった。