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中学では陸上部に入り、小説もよく読んだ

 学業成績も優秀で、運動も得意な伊藤さんは、地元の公立中学では陸上部に入った。400メートルリレーや100メートル走で活躍し、100メートルの自己ベストは11秒3。三重県大会の100メートルで6位に入ったこともある。もちろん、例会と部活の大会が重なれば例会を優先したし、将棋の勉強は毎日続けていたが、小説もよく読んでいた。充実した学校生活を送り、好きな本を読む。後に東大文学部に進むことを考えるとそれが良かったのだろうけれど、「そのときは、楽しいから部活も読書もしているだけで、将棋以外の可能性をたくさん残しておこうとか考えていませんでした」。

 奨励会は「若いほうが上」がはっきりある世界だ。1学年下の古賀悠聖四段は伊藤さんより前、小5で関西奨励会に入会していて、伊藤さんが6級で入会したときにはすでに4級と順調に昇級していた。

「圧倒的な昇級スピードの藤井二冠に、自分より先を行く古賀四段という年下で才能ある奨励会員を見て、自分の才能に見切りをつける気持ちがなかったと言えば嘘になります」

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奨励会時代に急に伸びる時期があるかどうか

 プロになれる人となれない人の差について伊藤さんに問うと、こんな答えが返ってきた。

「奨励会時代に急に伸びる時期があるかどうかが大きい気がします。僕には来ませんでした。続けていれば来たのかもしれませんけれど。同じ歳の服部慎一郎四段には急に強くなった時期があって、僕のほうが1年前に入会していたのに、追い抜いていきました」

 

 服部四段は中2の初めという遅い時期に奨励会に入会したにもかかわらず、近年では比較的若い20歳で四段に昇段している。

 伊藤さんは1年弱で1級上がるくらいの昇級ペースで、平均より少し遅かった。

「でも、昇級スピードが速い人を羨むのは違うと思いました。そういう人は僕より将棋の勉強をしている。僕もしなかったわけではないけれど、今にして思うと、自分の弱点が何かを見つめ、その穴を埋めていくような努力ができていませんでした」

 当時、杉本門下の奨励会員は4~5人で仲が良く、伊藤さんも藤井二冠とよく練習将棋を指した。2人が好きな詰め将棋の話もよくした。伊藤さんの藤井二冠の記憶は、楽しそうに将棋の話をする感情が豊かな少年だ。藤岡さんが、藤井二冠と対局したときに凄まじいオーラを感じたという話に水を向けると、「プロになってからは交流がなく、オーラは分かりません。タイトルを獲ってどんなに貫禄がついたのか見てみたいです。プロになって間もない頃は、悪手を指したことに気が付いて自分の膝を叩いたり感情が出ていましたけれど、だんだんそんなこともなくなってきたみたいですね」。