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「強い高校生に入ってもらいたいですけれど、入試もあるので待つだけです。僕たちが活躍して東大将棋部は強い、入りたいと思ってもらいたいです」(伊藤さん)

「スカウトはできないけれど、これからは東大に入りたい将棋の強い子に、受験のアドバイスをしたりできたらいいなと思っています」(天野倉さん)

「入学の時点では、将棋で推薦入学した他大の新入生のほうが強いけれど、こちらは研究の共有や、それぞれの努力で、その後の伸びでは負けてないです」(藤岡さん)

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杉本八段は、合格祝いの食事会を開いてくれた

 東京大学文科3類に現役合格した伊藤さんは、杉本八段に連絡した。伊藤さんより後に奨励会を辞めた1つ年上のきょうだい弟子は同じ時期に難関の国立大学医学部に合格し、やはり杉本八段に連絡した。喜んだ杉本八段は、藤井六段(当時)と他の奨励会員の弟子を誘って、5人で食事会を開いてくれた。

弟子へのまなざしが温かい杉本昌隆八段 ©️文藝春秋

 それだけでなく、雑誌のコラムに伊藤さんの東大合格の話を書いたり、頻繁に出演している地元のテレビ番組で話したりもした。杉本八段は著書「悔しがる力 弟子・藤井聡太の思考法」などで、「優秀な部下(弟子)は自慢したほうがいい」と書いているが、それは元弟子でも同じなのかもしれない。愛知県のテレビ局は、入学して上京した伊藤さんを取材しに来て「藤井六段の元兄弟子東大合格 公立高から」と放送されたこともあった。

「テレビと聞いて、『えっ』と思いました。でも、杉本先生が、僕が奨励会を辞めても弟子だと思って合格を喜んでくれたのは嬉しかったです」

「これはやばい、強すぎる」

 藤井二冠の将棋は大半が中継されるので、将棋連盟Live中継アプリや、ABEMAでちょくちょく見る。デビュー直後に連勝を続けていたときは、伊藤さんと練習将棋を指した頃より、はるかに強くなったことが分かる内容で「これはやばい、強すぎる」と感じた。

ヒューリック杯棋聖戦でタイトルに初挑戦を果たした藤井聡太七段(当時) 代表撮影:日本将棋連盟

 藤井二冠の初のタイトル戦、ヒューリック杯棋聖戦は緊急事態宣言が明けてすぐに始まった。対面での予定がなくなり、一人暮らしのアパートで自炊することが多かった伊藤さんは、レシピを見てチーズケーキを焼き、ゆっくり食べながら藤井二冠の将棋をABEMAで観た日もあった。

「スーパースターになって、将棋の内容にも惚れ惚れします。そろそろ僕のようなアマが見てもあまり勉強にならないレベルかも。そんなに将棋ソフト的ではないと思いますが、読みの蓄積が全然違うので真似はできません」

 

 藤井二冠の将棋の特徴については、「指し手に妥協がないところだと思います。ちょっと怖いけれど、最善ではないかという手と、安全勝ちできそうな別の手があったときに、ひるまずに最善の怖い手を指せるのがすごい。正確な深い読みがないとできないことなので。終盤だけでなく、どの場面でもそうなのが本当にすごいと思います」と語っていた。

 写真=末永裕樹/文藝春秋

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