「重機に背中向けるな。そのうち死ぬからな」
「はい。知識も経験も自分には何もないですが、できることからやっていこうと思いますのでご迷惑おかけしますが色々教えてください!」
ヤクザや前科者扱いをされ、なぜか罪の意識が芽生えつつあった私。自分はどうしようもない人間なのだから力を抜くことなんて許されない。そう思うと頭を下げてお願いすることに何の抵抗も抱かなくなった。相手も同じように一生飯場暮らしのお先真っ暗人間ではあるが、土下座だってできてしまいそうだ。
ユンボの先に付いているアタッチメントには穴を掘るショベル型と鉄を砕くドリル型の2種類がある。このアタッチメントの交換も私の仕事だった。接合部をピタリと合わせてピンを差し込むのだが、いくらユンボを運転している遠藤さんに指示を出し、穴を合わせようとしても一向にピンが入らない。なんとか入ったところで、ネジ止めの手順もなかなか覚えられず恐ろしいくらいに時間がかかる。
「こういう仕事苦手なタイプか。なんとなくそういう気もしたけど。あとお前、重機に背中向けるな。そのうち死ぬからな」
怒鳴られはしないものの地味に心に刺さる。アタッチメントの交換ができなければ私など穴を掘って水を撒くことしかできない。休憩時間に高見さんがコーヒーをおごってくれた。
「西成で何かあったら俺に相談しろ」
「アタッチメントの交換は慣れるまでは難しいからな。今でこそ10秒もあればできるけど俺だって初めからできたわけじゃないぞ。もうこの仕事始めて10年近く経っているからな。まあ俺は職人ってわけよ。資格だっていっぱい持っているぞ、ユンボはまだ運転できないがあれだって、あれだって……」
高見さんはなんというか高校生みたいなメンタルをしている。「西成で何かあったら俺に相談しろ。あの一帯ならヤクザに顔が利く」「俺が本気で怒ったらこの現場の人間たちはみんな逃げだすだろうな」といったことを周りには聞こえないようにこっそり私にだけ言ってくる。今後取った方がいい資格、すなわち高見さんがかなり苦労して取ったのであろう資格をいくつか教えてもらったが、一つも覚えていない。ドカタで食っていく気などないということが大きいだろうが、高見さんの話は「すごいですね」と右から左に受け流さないことには永遠に広がっていきそうなのだ。
【続き】「そいつは穴に落ちて死によってん。とんだ迷惑や」鋭利なガラス片が無数に降ってくる命懸け“日給1万円”現場のリアル……を読む
※本書は著者の体験を記したルポルタージュ作品ですが、プライバシー保護の観点から人名・施設名などの一部を仮名にしてあります。
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