和歌山県立神島高等学校。
この高校名を聞いたことがある人は、全国的にはそれほど多くないかもしれない。海と山に囲まれた自然豊かな紀伊半島に位置する、ごく普通の公立高校である。
そんな神島高校の校舎にはいま、こんな垂れ幕がかけられている。
「祝 写真甲子園3連覇」。
写真甲子園とは1994年に始まった全国高等学校写真選手権大会の略称で、予選には全国から500校を超える高校が参加する。本戦は毎年7月下旬に北海道を舞台に行われ、全国11ブロックを勝ち抜いた各校がそれぞれ3人1組で頂点を目指して現地で撮影を行い、優劣を競い合うことになる。その写真甲子園で2017年から3連覇を達成しているのが神島高校なのだ(※2020年は新型コロナウイルス流行のため中止)。
「強豪写真部」とは何ぞや?
さて、ここで素朴な疑問が浮かぶ。全国3連覇の「強豪写真部」って――どんな感じなのだろう? 運動部と違ってなかなかパッとイメージが浮かばない人が多いのではないか。
そもそも個々人の好みの差も大きく、評価の難しい写真というフィールドで、多くの人に「良い」と思われる写真を撮れるというのは、いったい何が違うのだろうか?
そんな疑問に答えを出すために、現地に向かってみることにした。(全2回の1回目/ 2回目を読む)
◆◆◆
目にしたのは、なんだか不思議な光景だった。
ダッシュを繰り返す野球部、ミニゲームで砂埃を巻き上げるサッカー部。向こうでミニハードルを使って動きづくりを繰り返すのは、陸上部だろうか。ここまではよくある高校のグラウンドで見られる放課後の部活動の一幕だ。
ただ、この高校ではその風景が少しだけ、違う。
グラウンドのいたるところにカメラ片手の生徒たち
駆け抜ける野球部の足下にしゃがみ込んでカメラを構える。かと思えば、ドリブルで迫って来るサッカー部にぶつかりそうなほどの距離まで迫ってシャッターを切る。時には、あえて距離を取って、トレーニングの合間の給水の表情を狙って虎視眈々とレンズを覗く者もいる――。そんな風に、グラウンドのあちこちでカメラを片手に闊歩する生徒たちがいるのだ。
面白いことに、撮られる側の運動部たちも、まるで彼らがそこにいることが普通であるかのように、その存在を気にしていない。それだけ彼らの活動は普段から行われているということなのだろう。
「撮られる方も『あぁ、また写真部がやっとるな』くらいなんちゃいますかね。もう慣れたもんなんやと思います」
そんな風に語るのは写真部の顧問を務める恵納崇教諭だ。
「ほんとはもっと図々しく撮りにいかないとあかんのですけどね。そういうところが今年の部員はまだまだやなぁ…」
恵納教諭はそんな風にぼやきながら、時折部員に声をかける。寒風の吹く12月にも関わらず、部員たちは1時間以上も延々と、グラウンドでシャッターを切り続けていた。(※神島高校写真部の皆さんが撮った写真はこちら)