文春オンライン

“DX”導入で大損した会社を救った「コストゼロ」の解決法とは?

「競争戦略×クリエイティブ」が最強の武器になる その1

source : ライフスタイル出版

genre : ビジネス, 働き方, 企業, テクノロジー, 経済, 読書

note

クリエイティブの仕事は「気」を変えられる

三浦 いま楠木さんがおっしゃった「気のせいである」というご指摘、この「気」はいわゆるコンセプトだと思います。「こっちのほうに行ったら幸せそうだよ、こっちのほうに行ったら儲かりそうだぞ」とコンセプトを作るのがクリエイティブの仕事で、いまそういう方向性を示せる企業や行政が少ない。

楠木 一般的に広告クリエイティブというと、人々により多く商品を買ってもらうとか、より高いお金を払わせる役割をイメージしますが、実は世の中の「気のせい」に手を突っ込むことで一気にコストダウンすることもできる。先程の三浦さんの例なら「LINEでいいんじゃない?」というオルタナティブを示すことでものすごくコストが落ちたわけだし、千利休のわび・さびにしても「キンキラキンよりこっちのほうが美しいでしょう」と時代の「気」を変え、圧倒的にコストパフォーマンスがいい世界を作り出した。

「気のせい」を変えられるのがクリエイティブの面白いところですね。

ADVERTISEMENT

 

時間をかけて積み上げないと、絶対に出ない結果もある

三浦 時代の空気に関していうと、僕は経営のストーリーをクライアントと語ることが多いんですが、この数十年の日本のビジネスの低迷の要因があるとしたら、多くの経営者も労働者もすごく短期的な視野でしかものごとを語れなくなったからではないかと最近思っています。近視眼的な傾向がとても強くなった。楠木さんは、「株主と労働者の関係って一見トレードオフに見えるが、時間軸を変えてしまえばトレードオンに変わる」という鋭いご指摘をされています。

 

楠木 そうです。目先でみると労働者への分配を下げれば株主の配当は上げられるというたぐいのトレードオフの関係ですが、中長期のスパンで儲かる商売を作っていけば労働者にしっかりと給料は払えるし株主に配当もでき、結果的に株価も上がる。でも、それを達成するまでにはちょっと時間がかかる。物理的な時間だけじゃなく、まずこれをやってから、そのあとでこれができるようになるというストーリーがないと、目先の損得を乗り越えられないんですね。

三浦 短期的に数値を見て修正を繰り返していくビジネスがいま日本では行われていて、その潮目を作り出した一つはPDCAだと思っています。Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返し、数値で測定して、うまくいかなかったらすぐにやり直して変えていくという。ただ、時間をかけて積み上げないと絶対に出ない結果ってある。