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2021/01/24

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

生き残っているだけで、エライ

「大抜擢だよ、N本さん!」

「ひゃっ!」

 私がいつものようにお客さまに督促の電話をかけていると、いきなり高田純次課長にぐわっ! と両肩をつかまれた。私はびっくりして変な悲鳴を上げた。

 私の働く督促のコールセンターにも、一大転機が訪れようとしていた。パソコンの導入である!

 ちなみにパソコンが導入されると、電話をかけてきたお客さまの情報を自動的に表示したり、入金処理がリアルタイムで反映されたり、督促状がボタン一つで対象者全員に発送されたりと、今までしてきた業務が劇的に効率化される。文明の利器バンザイ!

 また、パソコンの導入と同時に、私たちキャッシング債権を督促する部署は、その他のクレジットカードやショッピングクレジットなどの債権を回収しているコールセンターと統合されることになった。

 机と電話しかない「倉庫」からの脱出! その上男子校も解体! するのである。そんな目まぐるしい変化の中、私に唐突に異動命令が下された。

花形部署への異動命令

「N本さんは来週から、一般のクレジットカードを督促する部署へ異動することになったからね」

「えっ!?」

 クレジットカードの督促部署は、債権回収部門でも花形である。

©iStock.com

 督促のコールセンターに配属されて以来、回収数字がぶっちぎってドベだった私は、相変わらず交渉下手でお客さまに言い負かされてばかりいたけれど、前に比べれば悪くない回収数字を出せるようになっていた。

 それは皮肉にも、今まで回収数字を上げていた優秀な先輩や同期たちがみんな退職していってしまったせいだ。優秀な人ほど早々に転職先を見つけて会社を辞めていってしまう、するとその人たちが今まで回収していた債権は自然と後に残された私たちの回収成績に入るようになる。

 この頃のコールセンターは、ただ“生き残っている”だけでも上司に「よくやってるねぇ!」と褒められてしまう状態だったのだ。私はボロボロになりながらも、幸か不幸か、まだ生き残っていた。

 そして、生き残っている社員の中で、なぜか私に白羽の矢が突き刺さってしまったのだった。

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