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「やわらかいたたき方ではなく、尖ったところでチョップのように、みぞおちの部分を。頭の素肌の出ているところは、平たい部分で……」

 前頭部の禿げ上がった横山は、人のよさそうな眼鏡をかけた中年男性に見えるのだが、そのしゃべり方は小さな声でぼそぼそと、まるで何かに怯える小動物のように見えた。

「口の中から歯が3本出てきました」

 それから、横山の証言によると、取調官に自分の座った椅子を横から蹴られ、壁に叩き付けられた、そのときに「人殺し!」と怒鳴られて、定規、新聞で叩かれ、取り調べの最後は立たされたままだったという。

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 その翌日は、厳しい口調でやはり「人殺し!」と怒鳴りながら、正面に座った取調官が机を前に押し出して、壁の間に身体を押し挟むようにした。その時に、机の脚が右足の親指にあたって激痛が走り、見ると内出血して爪が一部剥がれていた。

 さらにその翌日。座っていたら、いきなり胸ぐらを掴まれ、強い力で持ち上げられる。

「私も立ち上がるかたちになって、胸ぐらを掴まれて、壁に押し付けられることになりました。耳が痛くて瞬間的に口を閉じて、そのあと、下から突き上げられるように殴られました。アッパーカットみたいに……」

「瞬間的なことなんで、ガツン!   ガツン!と、2回衝撃がありました。たぶん、拳と肘があたったと……。顎が麻酔をかけられたみたいに痺れて、血がブクブクと溢れてきて、それをゴクゴク飲んでた」

「殴られた瞬間、血がドクドク出てくるので、飲み込むのに一生懸命で、しばらくしてアメを舐めてるみたいにジャリジャリしてきて、房に入ってみると、口の中から歯が3本出てきました」

 弁護人の質問に、擬態語を交えながらそう話していた。

 これが本当なら、大騒ぎである。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売