ある名プロデューサーは、番組を長く続けていくためには「7割の伝統、3割の挑戦」が必要だと語った。挑戦、つまり新鮮さを欠いては視聴者の興味を惹けず、視聴率が尻すぼみになってしまうというわけだ。

 1990年代から2000年代にかけてテレビ業界に新風を吹き込んだ代表的な番組が『爆笑オンエアバトル』、そして『たけしのTVタックル』ではないだろうか。これらの番組を生み出したプロデューサーは、どのように“新鮮”な番組を生み出してきたのか。フリージャーナリスト小田桐誠氏の著書『テレビのからくり』(文春新書)を引用し、紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◇◇◇

ADVERTISEMENT

『オンエアバトル』の秘密

 “最もNHKらしくない番組” “史上最もシビアなお笑い番組”と形容される『爆笑オンエアバトル』がスタートしたのは99年4月。まず毎週土曜日の深夜0時25分に編成されたが、その後23時55分となり、02年4月からはさらに5分早まった。また夏季や年末・年始にはスペシャル番組が制作されるようになった。

 レギュラー番組でネタがオンエアされるのは、10組のうち上位5組まで。若手芸人がガチンコ勝負した結果を審査するのは、一般視聴者から選ばれた“素人審査員”たち。出場者に何票投票されたかは、ゴルフボール大のカラフルなボールの数により、視聴者に一目でわかる仕掛けになっている。番組の産みの親である芸能番組部エグゼクティブプロデューサーの並木正行が苦笑いしながらこう語る。

「ボタンを押すと点数が表示される方式も考えたんですが、演じ終えてから点数をつけるまでの間に、誰かが何かやるのではと疑う人もいるかもしれない。どの審査員が誰に入れたか、演者やマネージャーにもわかるようにするにはどんな手があるか、いろいろ考えているうちにパチンコ玉を数える機械が頭に浮かびました。

 ただパチンコ玉は小さいですよね。絵的にも面白くない。そこでゴルフボールにしたのです。審査員ひとりずつカゴか何かに入れてもらおうとすると時間がかかります。そこでゴルフボールを流してもらい1カ所に集める“流しそうめん方式”にしました。そうすればみんなに見えます。そこからバケツに入ったボールを数えるとまた時間がかかる。そこで演者自らバケツを取りに行き、秤に載せ測ることにしました。カネをかけずにしかも面倒臭いやり方を避けるにはピッタリの手法です」

 演者には自分のバケツにおよそ何個のボールが入ったかわかる仕掛け。まさにシビアなのである。

素人が評価するオーディションを番組にするという発明

 番組誕生のきっかけになったのは、BS-2の特集番組枠で96年と97年に数回放送された『センター・マイク笑』だ。番組では若手の漫才師にマイク一本で漫才を演じてもらおうと考えた。並木は番組のリサーチを兼ね、都内の小さなライブハウスを回ってみた。40代の並木が聞いていても面白くないが、若いコアなファンが付いていることがわかった。

©iStock.com

「イケる」と判断したが、オーディションをやっている時間がない。だいたい4、50歳代の人間が判断したのでは、若い視聴者との間でズレが生じるだろう。ならいっそのこと、若いお客さんに判断してもらおうと並木は考えた。

「そうすれば責任は芸人に押しつけることができます(笑)。我々ではなくお客さんがネタややりとりに反応せず『ダメだ』『面白くない』と言えば、逃げ道がなくなると思ったんですよ。こんな厳しいことはないでしょ。深夜番組ですからそんなにカネ(制作費)はかけられません。いわば素人が評価するオーディションをそのまま番組にしてしまおうと考えたわけです」