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「ハマコーさんにはホトホト手を焼きましたね」

 たとえば、例年以上に雪が降ったため餓死する鹿が増えそうだ。「あなたならどうする?」というニュースがあった後に、日光では鹿が増えすぎて樹木を食い荒らすなど農家の被害が拡大している。「さてどうすべきか」と解答者に答えてもらうわけだ。この時、久米が「殺すのもやむを得ないのでは」と言ったところ、ハマコーが「おまえ、キャスターでありながら、鹿を殺すと言うんだな」と喰ってかかった。滝川は半分ブルブル震えながら収録していたとこう振り返る。

「ハマコーさんにはホトホト手を焼きましたね。この椅子に座っていて下さい、とお願いしても座ってくれない。こちらからすると些細なことと思えることで、『帰る』と言い出して、実際帰ってしまう。ホントにハマコーさんと仕事するのは大変でした」

 気を遣って大変だが、番組に刺激を与えてくれるのも確かだった。そこで『TVタックル』にも刺激を与えてもらおうと、ハマコーに出演を依頼したのである。『TVタックル』は、政治討論番組でも教養・教育番組でもない。情報バラエティ色を前面に押し出すことで、政界の現状や与野党の動きをわかりやすく見せるように工夫しているという。

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“ナマ”の魅力を活かす

「難解な永田町の話に突っ込みを入れていくのですが、プロデューサーやディレクターが『この方向で』とまとめることができない珍しい番組です。ハマコーさんがカメラ目線になったら僕ら真剣勝負です。いい気分でどう怒らせるか展開を考えることはありますが、揉め事といいますか、ハラハラドキドキするやりとりをきれいに整理してしまったら面白くありません。ナマで刺身として盛りつけて出すに限ります」

 ネタがネタで、しかも生で出すため予期せぬ場外乱闘に展開することもままある。たとえば議場で居眠りする議員たちをしっかり映し、「参議院なんかいらない!」と白熱した議論をたたかわせた時は、参院議員たちから猛抗議を受けた。ことに“参院のドン”と呼ばれた自民党参院議員会長村上正邦の怒りは凄じく、「たけしを国会に呼べ」と叫んだほどだ。

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 その村上はKSD事件で永田町を去り、「あんな参院は不要!」と口角泡を飛ばしていた外添要一や田嶋陽子はその後参院議員になり、田嶋はさらに社民党を離党して神奈川県知事選に立候補し、落選した。まったく世の中の有為転変はわからない。

 03年9月15日に放送した藤井孝男・元運輸相の「国会・不規則発言編集問題」では、BRC(放送と人権等権利に関する委員会)の勧告、総務省の厳重注意処分を受けることになった。

 番組では、97年2月の衆院予算委員会で、野党議員が北朝鮮による拉致被害者の問題を質問している時に、藤井元運輸相がヤジを飛ばしているように放送した。しかし、実際は同じ野党議員が北朝鮮へのコメ支援問題を質問した時の映像だったのである。編集の際の思い違い、チェック漏れが原因だった。

【前編を読む】『報ステ』『水戸黄門』『K-1』…伝説の番組の裏側にうごめく“テレビ局の思惑”とは

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