文在寅大統領も“参戦”

 政界も沸き立つ世論に便乗していった。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、黄熙(ファン・ヒ)新文化体育観光部長官に任命状を授与する席で、韓国体育界における暴力、体罰、セクハラ問題など人権問題を指摘しながら、「問題が根絶できるよう特段の努力を傾けてほしい」と注文した。

 これを受け文化体育観光部や教育部では「学校運動部の暴力根絶およびスポーツ人権保護体系改善案」を審議・議決した。校内暴力(いじめ)を行った生徒は選手選抜および大会参加を制限し、プロスポーツでは新人選手選抜の際、校内暴力(いじめ)の履歴がないことを確認する誓約書を書かせることを柱としている。

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 国民世論と政界の圧迫に耐えられなかったバレーボール界は結局、2月15日に姉妹に対する「国家代表資格の無期限剥奪」を決めた。所属チームの興国生命は、姉妹に無期限の出場停止とともに年俸を支給しない方針を発表し、韓国バレーボール協会は姉妹の母親に授与した「立派な母親賞」を取り消した。

イ・ジェヨン ©AFLO

性的暴行も横行していた韓国スポーツ界

 10年も前に起きたいじめ事件に対して、双子の姉妹が過酷なほどの国民的非難を呼んだ背景には、文大統領の発言にあったように、深刻な人権侵害事件が絶えないスポーツ界に対する韓国国民の蓄積した怒りがある。

 たとえば2018年、韓国ショートトラックの看板選手で女子国家代表チームのシム・ソクヒは、4年間も代表チームのコーチに性的暴行を受けていたことを暴露し、韓国国民に衝撃を与えた。

 2020年6月にも、トライアスロン選手のチェ・スクヒョン(慶州市役所所属)が監督と理学療法士らによる常習的な暴行に苦しんだ末、「彼らの罪を明らかにしてほしい」という最後のメッセージを母親に残して自殺する事件が発生した。

 スポーツ界はもちろん政界でも、事件が起こるたびに特別法を設けるなど再発防止策を約束したが、結局メダルを取るため、あるいは記録を作るために暴行や暴言が繰り返されたのだ。

 今回の双子姉妹の場合、彼女たちの母親が所属チームの練習場に頻繁に出入りして練習に干渉したことを非難するネットの書き込みが広まったことも火に油を注ぐ結果となり、一気に奈落の底に堕ちてしまったわけだ。