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3・11の経験とコロナ禍対応

―― 危機への対応という意味では、コロナ禍への対応もまさに危機対応だと思います。あの災害経験や危機対応経験は、新型コロナウイルスへの対応にもいかされたのでしょうか。

御厨 いかせなかったと思います。自然災害もコロナ禍も同じ危機対応ですが、危機の種類が全く違いました。

 そもそも、東日本大震災では主に国土交通省が危機対応の最前線に立ったのに対し、今回対応しているのは厚生労働省と省庁から違う。

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 厚生労働省は昔から強い縦割りが指摘されており。しかも医系技官という、医師免許を持った専門性の高い集団がいる。もちろん、国土交通省にも工学部出身の技官がいますが、医系技官の独立性とは比べるまでもありません。

厚生労働省 ©文藝春秋

 この専門性の高い独立集団を抱えながら、さらに都道府県の末端には各保健所もある、まさに“伏魔殿”。国は当初あまり権限が明確でなく、現場は都道府県や市町村。震災対応以上に、現場と国との関係が一筋縄ではない。

 今回のコロナ禍では特に、医系技官や医者たちの発言ばかり目立っています。「政治」の視点から見れば、彼らは良い言葉で言えば専門家、悪い言葉で言えば“専門バカ”です。本来は彼らが政治的決断を担うのではなく、彼ら専門家の意見を聞いた上で、政治が陣頭指揮を執らないと回りません。

 しかし、今回のコロナ禍では、「聞いたら俺が答える」と主導権を握るようなスポークスマンは出てきませんでした。普段なら、最初の段階で官房長官を務めていた菅義偉氏が引き取ったのでしょうが、この問題では対応を掴みかねた。

 そうこうしているうちに政局のかねあいで菅さんが重要決定から外されるようになり、安倍政権末期にはマスクを配ってみたりと思いつきのようにおかしな決定が噴出。その後、菅さんも巻き返しますが、これまでの自民党的な自然災害への対応や菅さんのやってきた中央集権的手法が通用せず、GoToトラベル問題を筆頭に行き当たりばったりになっています。

 新型コロナウイルスは、自然災害と比べ対応する官僚も違えば状況も違う。政治家たちにとっては説明もできず、本当は関わりたくない。たらい回しされた結果、畑違いの経済再生担当大臣である西村康稔氏が、新型コロナ対策担当大臣を務めることになっています。

西村康稔氏 ©JMPA

 誰もやりたくないのは厚生労働大臣のポストだって同じ。「本当はこれだけ多くの人が感染してしまうはずのところを、がんばってこの人数で止めました」といったところで、「最初にいった数が不正確な大ボラだったんじゃないか」と批判される。政治家にとって「うまみ」はありません。