—— 他にもマインドコントロール下に置くためにやっていたことはなんでしょうか?
小野 洗脳するためには、被害者に問題を相談できる相手がいたらいけないんです。だから松永が考えたのは、ターゲットにした人物を社会から切り離すこと。その次は家族から切り離すこと。そういうかたちで、孤立させていくことによって逃げ場がない状況を作りだしていった。
家族の遺体を解体させ「犯行に加担している」意識を強めた
—— 最終的に緒方受刑者の父、母、妹夫婦、さらにその子どもに当たる甥や姪までもが犠牲になったわけですが、遺体の解体も一家でやらせていたと。
小野 そうですね。生き残った家族が遺体の解体をする。その家族たちにしてみれば、遺体の解体をすることで、自分自身も犯行に加担しているという意識が強まったと思うんです。それを松永は狙って、「自分たちもそういうことをやったんだ。自分たちも関わっているんだぞ」と。これで残された人たちは「自分も犯行に関わっている以上は逃げられない」というふうになっていく。そういった負のスパイラルに陥ってしまったんだと思います。
—— 遺体なき殺人といわれていますよね。
小野 彼らは遺体を解体して、ミキサーで細かくしたものを、当初のうちは自宅の下水管に流していたんですけど、途中からは近所の公衆便所に捨てに行ったりとか、そういうかたちで発覚しないように努力していた。
「洗脳する手口は天性のものだと思わざるを得ない」
—— 小野さんは、この事件の裁判の傍聴もされたんですよね?
小野 初公判も見ましたし、途中でも何回か見てますし、それからあとは、判決を受ける一審の判決公判も傍聴しています。
—— この事件の裁判で印象に残ったことはなんでしょうか。
小野 松永が、あることないことしゃべるというか、とにかく饒舌なんです。シリアスな殺人事件の裁判にもかかわらず、そこに笑いが生まれたりすることがある。笑いといっても失笑というか、松永の言い分があまりにも荒唐無稽なもので、それで笑いになったりするようなことまで起きる、そういう裁判でした。
—— 緒方受刑者はどんな様子だったんですか?
小野 最初のうちは、松永のほうがやや緊張気味で、緒方のほうがふてぶてしい様子だったんです。でも緒方は殺人を自供してからは、反省の態度を非常に見せるようになりました。
—— 緒方受刑者は、すべてを受け入れたというか、あきらめたというような。
小野 そうですね。緒方が自供を開始した時期というのが、ちょうど緒方の父親の殺人罪で緒方と松永が再逮捕された、その直後からなんです。きっと緒方自身が自分の父親の事件と向き合って、そこで考えを改めて、すべてを認めようと考えたみたいです。