右も左もわからなかった銭湯経営
2012年、スカイツリーが建った年、リサイクルショップから銭湯へ。2人は試行錯誤を重ねながら見よう見まねで銭湯経営をはじめる…。
朋子 もちろんお手伝いはしていましたが、銭湯の仕事は本職ではありませんでしたし、銭湯のことを知らなすぎて。機械の操作がまったくわからない状況で。お義父さんは動くことができず、お義母さんは番台が中心だったので、機械をさわる人がいなくて。
卓也 最低限の機械操作を業者さんに教えてもらったり、同業者の親戚に教えてもらったり。ほんとに何もわからず入りました。
朋子 その時は銭湯の仕事もしながら、リサイクルショップにも行って、またこっち戻ってきてという感じで。それまではお店が夜7時くらいに終わって、そこからのんびりできたんですけど、銭湯だと夜の時間が長いので。ほぼ寝る時間が3、4時間くらいになってしまって。一番下の子の出産時は、3週間後には銭湯に戻って、番台に座りながら横に子供寝かせて。子供の世話とお風呂屋の仕事と一家全員のご飯の支度もしていたから、寝る時間が少なくて辛くて…。さすがにということで、スタッフを初めて雇い入れて頂いて何とか回るようになりました。
60年以上続いた大黒湯を続けていくため、リサイクルショップ経営や子育てをしながらも何とか乗り越えてきた新保夫妻。最初は苦労の連続だった銭湯稼業も次第に安定していく…。そこから徐々に、ほかにはない銭湯ビジネスの付加価値というものを気にし始める。
朋子 1年ぐらい続いて、何か特化したものが大黒湯にはあった方がいいと思って。使っている水が地下水だったから、温泉申請を出してみました。それで成分を調査したら見事に温泉というお墨付きをいただいて。掘ったわけではなくて、地下水そのものを出してみたら、温泉成分が入っていたと。
でも温泉申請を出すことによって、配管の大きさをちょっと小さくしたりとか、工事が必要なんですよね。配管の径の大小とかにも細かい法律で決められた規定があって。でも大黒湯の個性を出すためにと工事をしました。
それから駐車場に元々薪が置いてあったスペースがあったので、露天風呂にしたりと、余裕が生まれるとともに少しずつリニューアルしていきました。リニューアルの結果、お客様も増えたこともあり、オールナイト営業に踏み切ったんです。混雑緩和をして少しでもゆっくりお客様に入ってもらいたくて。時間を延ばしてちょっと混雑を分散させようということで。不退転の決意で営業時間を夜12時から朝の10時まで10時間一気に延ばすことにしまして。
型破りなオールナイト営業
サウナ施設でこそ普通だが、銭湯のオールナイト営業はなかなか聞いたためしがない。別事業から新規参入した新保夫妻ならではのユニークなアイデアである。
朋子 最初は深夜から朝までの10時間で、お客様が30人程度しかいらっしゃらなかったんですよ。当初は認知も少なく、このままだと営業を続けていくのは難しいなと。でもお客様にはすっごい喜ばれていたんで、徐々に口コミで浸透していきました。
気が付いたら深夜営業のみで沢山のお客様にご来店頂きまして。470円で入れるし、深夜料金もとってないので。特に深夜しか来られないお客様からの感謝の声がすごく多くて。働き方も変わりつつありますし、今の時代にはこういうのも良いんじゃないかなと、やってよかったなと思っています。
異業種からの転換で様々な苦労を乗り越え、大黒湯をやっと軌道に乗せた新保夫妻。いよいよ2店舗目、黄金湯の経営へと乗り出す。銭湯に新しい風を吹かせようとする新保夫妻の前に立ちはだかったのは、くしくも業界の古き慣習だった…。
後編に続く
INFORMATION
押上温泉・大黒湯
住所 東京都墨田区横川3-12-14
電話 03-3622-6698
料金 大人470円(2時間)、中学生 370円、小学生 180円、幼児 80円
※営業時間などの最新情報は公式HPをご確認ください。
https://www.daikokuyu.com/
錦糸町・黄金湯
住所 東京都墨田区太平4-14-6 金澤マンション 1F
電話 03-3622-5009
料金 大人470円(1時間30分)、中学生 370円、小学生 180円、幼児 80円
※営業時間などの最新情報は公式HPをご確認ください。
https://koganeyu.com/