銭湯ならではの悩み
古くから続く公衆浴場は、その性質上、入場料は470円(公衆浴場の統一料金)と安くおさえられている。すなわち決してもうかる商売ではない。収入は法律で守られている部分はある一方で、ビジネス的にみるとそれが足かせになっていることも少なくないという。
朋子 1時間に50人の方にご利用いただくので目一杯なんです。水道光熱費、人件費や補修などのランニングコストもかかりますし。そもそも35年経っていたのでほぼ設備も入れ替えましたから、改修費用は億単位でかかってるんです。人生かけての改装でした。施設は続けていれば老朽化しますし、改修には莫大な金額がかかる。それが払えなくて廃業というパターンも多いんです。継続的にお客様にご来店していただくためには、新しいことに挑戦して付加価値をつけ、そこで商売をしていくしかないんです。
卓也 銭湯でありながら色んな業態を作るということを目指しているんです。大黒湯でもマッサージ部門を立ち上げたり、お風呂だけじゃない事業もやってたんですが、公衆浴場だけだと経営は難しい。なので銭湯だけどクラフトビールのサーバーもあって、ターンテーブルがあって、そこにときおりDJがきて小さなイベントも開催している。2階にはホステルを作って飲食も提供する。銭湯を中心に色んなサービスを付帯していく。銭湯だって新しいビジネスモデルを創出できるんだというところを見せたくて。そうでもしないと次の世代に銭湯は生き残っていけないと思いますから。
幻の都心進出計画
裸一貫からリサイクルショップを立ち上げ、軌道に乗せたところで思いがけず大黒湯を継承することになった新保夫妻。夫唱婦随のたたき上げ人生だが、実は幻に消えた大きな計画があったという。
朋子 実は黄金湯をやる前に、都心の超一等地に新しくサウナ付き銭湯を作ろうという計画があったんです。話は進んでいたんですけど、色々あって結局その話は無くなりました。でもその時に都心でサウナ付き銭湯を経営していくには、どうしたらいいか、何が必要かということを2人で真剣に考えて。
卓也 サウナのことも、お風呂のことも、業界のことも。今の黄金湯があるのはその計画あったからと言っても過言ではないと思います。
黄金湯のこれから、銭湯のこれから
朋子 サウナが注目を浴びたことは大きかったと思います。「サ道」の「ととのったー」って表現って、本当に素晴らしいですよね。今やすっかり定着した感じもありますし、あの作品に今の温浴業界は助けられていると思いますね。そうじゃなかったら私たちもあんなにサウナに力を入れることもなかっただろうし。これから改装される温浴業界の人たちもサウナを中心にして改装を考えるんじゃないですか。それが呼び水になって日本中でサウナ施設が増えて幸せな人が増えるといいなと思います。
卓也 代々やってきた銭湯の立場としては、地元に行きつけのお店が3軒ある環境がベストだなと。近くのお店が休みの時に、別に行ける場所がある。さらに気分で変えられると選択肢も広がるし、銭湯に行くこと自体が楽しくなる。だから老若男女みんなが公衆浴場を気軽に普段使いできるように、少しでも銭湯を残していけるような試みができればと思います。
朋子 黄金湯としてはビルの上のスペースをこれから活用しようという計画を進めています。そこに宿泊できる小さなホステルとお食事処、あかすりが出来る場所を作ろうと思っています。屋上もあるので、そこでも色々楽しいことをしたいなって思っています。
時代や顧客のニーズをとらえ、形を変化させながらも守るべき伝統はきちっと守る。進化する銭湯、黄金湯。2020年代以降の新しい銭湯の在り方を垣間見た。
INFORMATION
錦糸町・黄金湯
住所 東京都墨田区太平4-14-6 金澤マンション 1F
電話 03-3622-5009
料金 大人470円(1時間30分)、中学生 370円、小学生 180円、幼児 80円
※営業時間などの最新情報は公式HPをご確認ください。
https://koganeyu.com/