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テレビにはまだ夢はあるのか? フジテレビ『567↑8』で行われた“レジェンドディレクター”片岡飛鳥の「血の伝承」

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「ウソは絶対ダメ」と語る江頭が…

 ある日の「エガちゃんねる」収録後、私服姿の江頭2:50が、地下駐車場から愛車プリウスで帰ろうとした刹那、「8ちゃんねる」を名乗る「ブリーフ団」風の男が車にぶつかってくる。車から出てきた江頭を集団でそのまま拉致。いかにも『めちゃイケ』感のある演出。「ついに、片岡飛鳥が動き出した!」とワクワクするオープニングだった。

 フジテレビの若手ディレクター6人からなる「8ちゃんねる」の面々は「エガちゃんねる」と自分たちの作ったVTRのコラボを希望し、一度、江頭に観てほしいという。

 強引なやり方に「お前らふざけんじゃねえよ。もうそういうのやめようぜ」と抗議する江頭に「江頭さんこそ、そういうのもうやめませんか? ここまでの流れ、全部台本通りじゃないですか」と暴露する「8ちゃんねる」。「ちょっと待ってよ。そういうの言っちゃうの?」と困惑する江頭に「それを言わないでやることのほうが僕らの世代にとっては古いのかなって。駐車場とかも全部台本通りじゃないですか」と明かしてしまうのだ。

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 江頭もYouTubeでも「ウソ」は絶対ダメだと語る。だが、「お言葉を返すようですけど、さっき僕らと一緒にウソを全力でやって」と指摘された江頭は「だからそれはウソじゃなくて、“設定”じゃん…」と弱々しく反論する。

江頭2:50と若手Dたち TVerより

“ウソ”が前提だと“ホント”の部分を探すようになる「嘘席食堂」

 それを受けるように「テレビの中にウソはあってもいいですよね?」と企画されたのが、かまいたちがMCの「嘘席食堂」だ。もちろん『相席食堂』(ABC)のパロディで、ド深夜の番組とは思えないほどしっかりセットが作られているところからも、力の入れようが伝わってくる。ディレクターは「K」こと、2012年入社の玉野鼓太郎。

 テレビの「ウソ」は視聴者に嫌われる。

 バラエティのウソはひとつ残らず探し出され、許されないことが多い。けれど「みなさん、テレビのウソを探すのにそろそろ疲れていませんか?」という主旨で、「ぼる塾・田辺さんの打ち合わせは実は結構、細かい」、「金子恵美は実は夫のことを許してない」といった全編が「ウソ」という前提のVTRが流れる。

嘘席食堂 TVerより

 そうやって「ウソ」が前提のVTRを観ていると不思議な現象が起こる。その中に垣間見る「ホント」の部分を探すようになるのだ。テレビは本来、虚実皮膜を行き来するのが面白さのひとつだ。『めちゃイケ』はまさにそういう番組だった。だが、いつしか「虚」が蔑まれ、「実」ばかりが尊ばれるようになった。けれど本当は「虚」があるからこそ「実」がより面白くなるのだ。