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「保守がどうして強いんですか」

――そうしますと、今後も政権の右左関係なく、公文書廃棄は何度も起きると?

伊藤 可能性はあるんじゃないですか。でも、これだけ騒がれたからね、そんなに簡単にはできないと思いますよ。

――森友の関係ですともう一つ、稲田朋美防衛大臣や柴山昌彦文科大臣が、教育勅語はいいんじゃないかという趣旨の発言をして話題になりました。昔であれば、それこそすぐに大臣を辞めさせられるような発言だったと思いますが、最近はそうならないですよね。そういった点で、やはりかつてに比べれば左は弱くなっている、保守のほうが強くなってるんじゃないかと、どうしても思えるんですが。

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伊藤 僕はそんな気はしませんね、全然。保守がどうして強いんですか。

――つまり、問題とされる発言をしても全くクビにならない、ということは起きているのかなと。

伊藤 何か問題発言をしたらすぐクビにしたいというお気持ちはわかりますけども。

――私がそう主張しているわけではないのですが。

伊藤 この間の森(喜朗)さんだって、そろそろ辞めさせたいと思っている勢力が、あっ、いい発言をしてくれたと、うれしくてしょうがないわけですよ。それで攻撃した。そういうのはマスコミが好きだからね。でもなんか、あなたにとっては森友学園の話は大きいんですね。私はあんなつまらん問題、と思ったんですけど。

――いえ、それこそ『正論』や『WiLL』を読んでいると、保守論壇では森友学園を応援したり、同園に講演に赴いたりする人も多かったので、伊藤さんはどのようにご覧になっているのかな、と。

伊藤 そうかな。そんな人いたかな。たとえば?

――竹田恒泰さんや青山繁晴さんなどは、連載陣でもありますが。

伊藤 いや、知らないなぁ。

「社会の動きと研究」の関係性

――わかりました。では最後に、改めて歴史研究について伺います。木戸日記研究会に伊藤さんがいらっしゃったときに、その場にいた丸山眞男さんに「君はsein(~である)の学だ。私はsollen(~べきである)の学をやるんだ」と言われたと本に書かれていました。実証研究はseinの学なんだろうと思うんですが、今日もお話を伺っていて、伊藤さんにはある種のsollenというか、歴史に対する強い思い、情念があるのかなと思いました。seinの学を支えるために、sollenが必要なのかな、と。

伊藤 それは関係ないんじゃないですかね。僕はね、子供の頃から歴史が好きで、いろんな資料や何かを読んだりしてたんですよ。そもそもは古代史をやろうと思って東大に入ったからね。『新撰字鏡』だとか、ああいう古代に作られた文献を親父が持ってたから、それを読んでたんです。

――では、伊藤さんの歴史に対する向き合い方としては、元々歴史に対する関心があって、そこからsein、つまり事実はどうなのかと解明する方向に向かったということでしょうか。

伊藤 そうですね。

 

――それは、先ほど仰っていた「日本人が素晴らしいということを前提に歴史教育をしなければいけない」という話とどう繋がってくるのでしょうか。

伊藤 歴史学者だろうと何であろうと、僕は日本人として日本の国を愛するのはごく自然なことであって、いいんじゃないかと思うんですね。その一方で、日本史の研究においては自分なりの構図を作って、きちんと分析して、それを実証する。実証から図式も生まれるし、図式から実証もできるし。そういうことをやりたいと思うようになったわけですね。

――伊藤さんの本の中では、学生時代、既存の権威から離れるために資料を発掘しようと思ったということも書かれています。それも、やっぱり単なる興味関心だけで事実を追うというよりは、社会の動きと研究が連動しているような気がしたんですけれども。