〈前記のとおり、由紀夫は、基本的に「片野マンション」の浴室で1日中立たされていた。甲女も学校が休みの日には由紀夫と一緒に立たされていた。被告人両名が入浴している間は、由紀夫は台所で立たされていた。長時間立たされた後に、由紀夫の足がむくんで腫れ上がったこともあった。松永は、由紀夫に正座するよう命じたが、由紀夫は足が腫れて曲がらず、座れなかった。松永は、由紀夫の太ももを上から踏み付けて無理にでも座らせようとしたが、それでも由紀夫の足は曲がらず、由紀夫が転倒したこともあった。
松永は、床が汚れると言って、食事や通電の際、由紀夫と甲女に対し、そんきょの姿勢を執らせ続けたこともあった〉
松永が由紀夫さんに命じた制限は、排泄にも及ぶ。回数を制限され、排泄をする際にはそのつど、松永の許可が必要とされたのだ。具体的な内容については判決文に詳しい。
人間としての尊厳を踏みにじられ
〈松永は、由紀夫を浴室で寝かせるようになった同年(95年)12月終わりころから由紀夫が死亡するまでの間は、浴室内でペットボトルに小便をさせた。また、松永は、由紀夫の大便の回数が多いとして、同年秋ころから大便を一日1回に制限し、それ以上大便をしようとすると制裁を加えることがあった。松永は、由紀夫にトイレで大便をさせるときは、全裸にならせた上、浴室からトイレまでの床に新聞紙を敷き詰めて移動させ、13分の制限時間を課し、便座に腰をかけることを禁じて中腰の姿勢をとらせ、ドアを開けたまま、緒方をして用便の様子を監視させるなどした。由紀夫が用便をした後は、緒方が、由紀夫の尻や由紀夫が尻を拭いたトイレットペーパーを確認し、由紀夫を浴室に戻し、床に敷いた新聞紙を片付け、便器、トイレや洗面所の床を拭いて掃除した〉
こうした由紀夫さんの人としての尊厳を踏みにじる行為にとどまらず、直接的に罰を加える行為もあった。以下続く。
〈由紀夫は、便意を我慢できずに大便を漏らすことが何回かあった。松永は、由紀夫が大便を漏らすとして、由紀夫に何回か紙おむつを穿かせた。また、松永は、由紀夫が大便を漏らしたとき、何度か、緒方に指示し、由紀夫の尻やトランクスに付いた大便をトイレットペーパーで拭き取らせた上、由紀夫にトイレットペーパーごと口に入れて食べさせたり、大便の付いたトランクスを口に付けて吸わせたりした。そのとき、由紀夫は大便の付いたトイレットペーパーをなかなか飲み込めず、松永が水を与えて飲み込ませたことがあった〉
こうした虐待が連日繰り返されたことで、すでに抵抗の気力を失っていた由紀夫さんは、目に見えて衰弱していくのである。
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この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。