文春オンライン

ピンク・レディー、郷ひろみ、山口百恵、山本リンダ…近田春夫が選ぶ「文化庁新長官・都倉俊一の名曲ベスト10」

“筒美京平とは対極の作風”

2021/04/18
note

 挑発的な眼差し、体つきを必要以上に強調したかのようにも思われるコスチューム、一の宮はじめの刺激的な振り付け等々の強烈な“視覚的要素”に拮抗するどころではない。その衝撃の歌声は、最終的に何より人々の心に焼きつき、残ってしまったのである。

 この“センセーショナルな歌い方”は誰のアイデアだったのか?

阿久悠は如何なる意図で都倉俊一に白羽の矢を立てたのか

 ところで、この企画での阿久悠の起用が、先にも述べた森山加代子のカムバック劇を成功に導いたその力量に頼んでのことだったことは想像に難くない。

ADVERTISEMENT

阿久悠氏 ©文藝春秋

 その流れでの全権委任だったとは思うのである。

 だったとして、では阿久悠は一体如何なる意図で――『スタ誕』などで作曲家達との豊富な交流はあっただろう――あえて都倉俊一に白羽の矢を立てたのか、はたまたどのような発注の仕方を都倉俊一にしたのだろうか。興味深いのはそこなのである。

 というのも、最近目にした記事(都倉俊一が筒美京平を追悼する内容)で、都倉俊一は基本的に歌詞に曲をつけるということはせず、いわゆる“曲先”のスタイルを一貫してきた音楽家なのだということを知ったからである。ならば『どうにもとまらない』もメロディが先だったわけか。

 私はてっきり阿久悠の書く歌詞が先ずありきで、それに合わせてあの「音響」が生まれたのかとばかりずーっと思っていたのだ。

“都倉俊一サウンド”で山本リンダは生まれ変わった

 この一連の山本リンダのシリーズの“音”には、通底するひとつのテイストというかトーンというのか、カラーがある。主観で語ることを許されるのなら、それはどこか旋律の作りが直線的で、甘さがない。

 いつもその響きに女性的な柔らかさを必ず感じさせてくれる筒美京平とは、対照的とも呼べる作風であるといえよう。

インタビューでの筒美京平さん 1976年 ©共同通信社

 いずれにせよ、その男性的といってもいい力強い“都倉俊一サウンド”のプロダクションがはじめにあったればこそ、阿久悠の“山本リンダ生まれ変わり”の計画も、成功を収めたのだと、今となっては実感せずにはおれないのである。

『あなたの心に』の系譜に属するペドロ&カプリシャス

 一方で、もうひとつ忘れられないのが、ペドロ&カプリシャスである。

 こちらは山本リンダの場合とは違う、どちらかといえば『あなたの心に』の系譜に属する作風である。ついでにいえば、後の都倉俊一作曲を系統で整理すると、大方が、このふたつのタイプに分類されるだろう。

 ただ、こちらも、山本リンダのケースとは違うけれど、ボーカルが替わり、バンドとしては再起をかけてという、請け負った人間にとってはなかなかプレッシャーのかかる、先の読みにくいレコーディング作業であった点は同じである。