でも梅田のサイファーには中卒の人や、ひきこもりだった人や、バリバリのエリートコースを歩いているような人もいました。まったくちがう生き方をしてきた人たちが、ひとつの場所でラップをしていることに驚いたんです。それまでは学校が自分の世界のすべてで、学校で「イケてる」「イケてない」という格差があることにずっとイラついていたんですが、学校の外の世界の人たちと出会って、「俺はすごく狭い世界にいたんやな」と思いました。
それからは、見た目とか、まわりの人と同じことができない、ということをいっさい気にしなくなりました。「俺にはラップがあるし、それを共有できる仲間がいる。それが一番楽しくて大事なことやから、別に学校ではどうでもええな」と、ある意味、開き直れたんですね。
俺は梅田のサイファーで「学校でイケてない自分」をネタにしてラップをしました。「俺は学校ではぜんぜんイケてない。学校で騒いでるやつらを陰で見ながら、あいつらぜんぜん面白くないやんと思ってる」と言ったら、みんな楽しんでくれて場が盛り上がったんです。こんなこと、学校では絶対に言えない。言ったら「お前は陰キャラなんやな」と、「イケてない自分」が完全に固定されてしまう。でもサイファーでは、そういう、自分のイケてない部分をみんなが楽しんでくれる。そのことにすごく救われたんです。コンプレックスをさらけ出した方が、自分もまわりも楽しかったんですね。
俺はいろんなことに対して卑屈な考え方をしてしまうんですけど、でも歌詞を書いてみると、そのおかげで通りいっぺんではない面白い表現になったりもするんです。それに劣等感は負けん気につながります。「あいつらをなんとか見返したろ」みたいな。そんな被害妄想をぜんぶ曲やラップにして出すことによってそれが面白い表現になるんです。
だから今ではこう思います。自分にコンプレックスがあったり、劣等感があったりする人こそ、なにかを表現するのに適している、と。多くのアーティストと出会いますが、みんなコンプレックスを持っています。俺も、満たされてないからこそ、それを埋めるために表現をするという方法で今も自分を保っているんです。
大会に出場して「俺、今、人生で初めて、主役や」と思った
──「MCバトル」の全国大会で3連覇されていますね。バトルでは相手を罵倒したり罵倒されたりしますが、恐怖はなかったのですか。
R-指定 初めてのバトルは高校2年のときでしたが、怖かったですよ。最初は「ステージに上がれよ」と友だちに言われたんですが、「ええわ、恥ずかしいわ」と言っていたんですよ。でもよく考えたら、自分にはラップしかないので、「もうどう思われてもいいから、やってまえ!」と。それで最初のステージに上がったんです。そもそも人見知りなんで、人前に立つのは苦手なんですが、そのときは勢いがついたんですね。失うものなんて一切なかったから出られたのかもしれません。