ディズニーランドに行きたくなって「大会に出たくない」
――中三段は、男女混合の小学生全国大会でも上位に入って有名でしたものね。ただ、山根先生も小6のとき、JTプロ公式戦と同時開催されるこども大会の最激戦区・東京大会で決勝に進み、「東京の高学年の部で女の子が!」とプロ公式戦を見にきた(こども大会決勝は、プロ対局の前座として行われる)お客さんに衝撃を与えたことがありました。決勝はステージで、袴を着せてもらって対局できる。それに憧れ、激戦の東京を避け、わざわざ参加者が少なめの地方に遠征する親子もいました。山根先生は逆に、四国から東京大会に参加で、それも驚きでした。
山根 実は四国大会にも出ていたんです。でも、3戦全勝しないと通過できない予選で負けてしまいました。一度、決勝トーナメントに進出したら、もう他地区の大会には出られないけれど、予選落ちなら出られる。小学校の大きな大会も最後だから(JT大会東京は11月)ということで、母が東京に連れて行ってくれることになりました。
それなのに私は東京に着いたらディズニーランドに行きたくなって「大会に出たくない」。困った母は「せっかく来たのだから、出ようよ」。「じゃあ、優勝したら犬を飼ってくれる?」。東京大会は四国大会の何倍も参加者がいます。優勝なんてできるわけがないと思った母は「いいよ。いいよ」と。じゃあ、と私は出ることにしました。
初めて羽生先生に会えたのが嬉しくて
――その時の東京大会は見ていました。てっきり、強い相手を求めて四国大会より東京を選んだのかと思っていたのですが、そんないきさつがあったとは……。
山根 予想外に私が勝ち進むもので、母は犬の約束をどうしようとヒヤヒヤしたそうです。人前に出るのは苦手で、袴を着てステージに上がりたいとはまったく思っていませんでした。広い会場にたくさん人がいて、こんなステージで対局なんて緊張で倒れてしまうと思ったのですが、そういうときに限って冴えてしまって……。決勝進出が決まって「ステージに上がるのは嫌だ」と駄々をこねて母を困らせました。サイズの合う女の子用の袴は用意されておらず、低学年用の袴を着せてもらい、無理やりステージに上げられた感じです。決勝では、川村悠人現奨励会三段に負けでした。表彰式で羽生善治名人(当時)がサプライズで登場され、初めて羽生先生に会えたのが嬉しくて、最後はニコニコしながらステージを降りました。
――それで、つんつるてんの袴姿に。男子用のグレーの袴は、サイズが豊富に用意されていると聞きましたが、女子がステージに上がることはほとんどなかったから、衣装のサイズが少なかったのですね。東京大会の高学年の部は、千人以上の参加者がいて、決勝に進むのに9連勝くらい必要だったと思います。そこでの準優勝はすごい。犬は飼ってもらえたのでしょうか。
山根 いえ、優勝ではなかったので犬の約束はなしになりました。マンションに住んでいたので、犬を飼うなら家から買わないといけないと(笑)。