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「桂馬の動かし方ってどうだっけ?」と初心者のフリ

――文部科学大臣杯では、小5~中3の5年連続で愛媛県代表になり、4回も西日本大会を勝ち抜いて東西4チームしか行けない全国決勝大会に進出しています。男女混合の大会ですが、ほとんどが男子3人のチームではなかったでしょうか。

山根 確かに男の子ばかりで、女の子は舐められていました。小学生の時は、聞こえるように「あのチームは女子がいるから、女子には絶対勝てる」なんて言われたこともあって、ムッとしました。それで、私も聞こえるように「桂馬の動かし方ってどうだっけ?」と藤岡君に聞いて初心者のフリを。油断している相手をボコボコにして勝ちました(笑)。藤岡君ともう1人のメンバーはニヤニヤしていました。本当はこんなこと、いけないですね。

松山市立双葉小学校は、文部科学大臣杯小・中学校将棋団体戦の小学校の部で全国優勝した。チームメイトの藤岡さんとメダルをかけて(山根ことみ女流二段提供)

――それは、女の子を舐めている男の子がいけません。小学校の部で全国優勝した2008年度の大会結果が記録されている将棋年鑑には、「全国決勝大会に女子唯一の出場者だった松山市立双葉小学校の山根ことみさんが、県予選から全国準決勝まで無敗だったことは特筆もの」と書いてありました。決勝で負けた以外は全勝で、チームに大きく貢献されています。

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山根 小5で全国優勝したときは、藤岡君が五段、もう1人が三段、私が初段くらいで、一番下の気楽な立場で伸び伸びと指せたのが良かったと思います。中学では、負けられない立場になりました。藤岡君は他の中学に進んだので、松山将棋センターの同じ市立雄新中学の仲間と出ました。私ともう1人が五段くらいで、残りの1人は初心者というときも。2人で絶対勝たないといけない。プレッシャーもすごかったですね。

もうダメだから投了しよう、とメンバーの顔を見ると……

――中学の部で全国準優勝3回はすごい記録だと思います。東京の開成中学など将棋も強い有名男子中学とも戦って、そのようなチームにも山根先生は恐れられていたと聞きました。もう女の子だから舐められることはなくなって。

 

山根 一番印象に残っているのは、中2のとき、西日本大会で兵庫の灘中学とあたったときです。強くて有名なチームなのに早い段階で当たってしまい、一度負けたら全国決勝大会には行けません。1対1で私の対局が残り、敗勢になっていました。もうダメだから投了しよう、最後にメンバーの顔を見ておくかと横を見ると、ものすごく真剣な目で、私の盤面をじっと凝視していました。

「これは投了できない」と思い直して、粘っているうちに逆転に成功。残りの対局も勝って、全国大会に行くことができました。個人戦だったら心が折れて負けていました。団体戦だからこその勝利で、苦しくても諦めてはいけないことを学びました。仲間と一緒に戦えるので、一番楽しい大会で、多くの学びもありました。