近年は『鬼滅の刃』が大ヒットし、今年2月には累計発行部数が1億5000万冊を突破したと発表された。ところが実は、累計販売部数が世界で60億冊超のシリーズがある。女性向けロマンス小説ブランド、ハーレクインだ。

※写真はイメージです ©️iStock.com

 約70年前、ハーレクインはカナダの小さな出版社で創刊した。お抱え作家が書く原作は6大陸・17言語で販売され、現在も1秒に2冊売れているという。日本には1979年に上陸し、2019年に創刊40周年を迎えた。

 日本のハーレクインは独自の試みとして、1998年から小説をコミック化。さらに2005年に小説を電子書籍化し2020年で創刊15年となった。同年3月の緊急事態宣言直後には、Twitterで「#こんなときだからロマンス小説読んで免疫力上げようぜ」タグが自然発生的に生まれて話題になるなど、ハーレクインはコロナ禍も関係なく元気なのだ。

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 なぜハーレクインはここまで長年にわたって“爆売れ”し続けているのか。その秘密を日本の販売元、ハーパーコリンズ・ジャパン ハーレクイン小説の編集長、佐藤美由紀さんに聞いた。

“波乱万丈”を切り抜ける普通の女性が主人公

——ハーレクイン作品は突飛にも思える設定が多いですよね。たとえばリン・グレアム作『禁じられた告白』のケイティーは、23歳でギリシャの大富豪とアバンチュールの後、双子を妊娠するも彼に捨てられ、シングルマザーになるという……。 

佐藤 ハーレクインのヒロインが非現実的な環境に身を置くケースが多いのは事実ですが、ヒロイン自身はどこにでもいる普通の女性なんです。いたって普通の女性が困難に見舞われ、その困難を乗り越えるなかで運命の出会いをし、幸せを掴みます。

※写真はイメージです ©️iStock.com

 読者の方がヒロインとまったく同じ経験をすることは滅多にないでしょうけれど、共感できる部分は多いんですよ。たとえば「彼に重たく接してウザがられる」「両想いだと思っていた彼に突然フラれる」ということは現実によくあることだと思いますが、実はケイティーの悩みも同じなんです。

 時代や環境が違ったとしても、人間の悩みや喜びは普遍なんです。私たちの人生には、家族やケガ、病気、仕事の悩みなど、いろいろな困難がありますよね。時代がどれだけ進歩してもこれは同じです。だからこそ、「現実世界で頑張れば幸せが手に入る」というメッセージが、時代や国を超えて受け入れられているのだと思います。