「スミ入れてへんね?」
「何かと物入りやから、コールセンターよりもこっちのほうが実入りがいいのやったらと思って」とタカヤマ。「息子さん、大学院に行かせてはるから、授業料、相当まだ要るんよね」と私からウソの補足。
「大学? えらいねんね。子どものためていう子は、うちも何人もおったよ。目的はあったほうがいいわ。水商売の経験は?」
「むか~し、新地でバイトしてましたけど。20代のころ」
「料亭の経験は?」
「料亭って、ええっとこういうところのことです?」
「そう」
「ありません」
「スミ入れてへんね?」
「スミ?」
「タトゥ」
「そんなんありませんわ」
「(週に)何日来れる? 同じ働くんやったら肝据えてかからな。タカヤマさん、なんぼ欲しいの?」
「なんぼって、月に?」
「なんでやのん。日払いよ。今の仕事いくらもらってるの?」
「会社は月給やから、それなりにもらってますよ。コールセンターのバイトは時給1600円ですけど」
「そしたら、次の日曜日でも試しに一回座ってみたらええ」とママは性急だった。話がかみあっていない。しかも「試しに一回」とはびっくりだが、面接に来た女の子たちはママのペースに巻き込まれていくのか。私は、「そやからママ、お互いの条件が合ったら、いうことですやんか」と、10分前に言ったのと同じ言葉をはさむ。
「務まるか知りたいから」と自分のペースに持っていくタカヤマ
その後、タカヤマは頼もしかった。
「ママ。私のほうから質問していいですか。自分が務まるかどうか、知りたいから」と、ぐいと自分のペースに持っていってくれたのだ。私に代わって取材をしてくれるような感じ。
「座ったら、いくらになるんですか?」
「(お客の支払の)半分やから」
「つまりいくらですか?」
「うちは(1回)1万円で、あと消費税分1000円もらってる。15分で。女の子はその半分、5000円。(お客に)もっとおりたいなと思わせて延長にもっていったら、もっとなるよ」
「もしその日坊主(お客ゼロ)やったら、保証とかあるんです?」
「そんなんあらへん。接客してなんぼ」
「交通費とか衣装代とかは?」
「自前やよ。心配せんでも、新しい子にはすぐに(お客が)つくよ」
「新しい子いうたかて、この年ですよ。若い子やったらまだしも……」
「そんなん関係あらへんねん。新しい子は新しい子。“ビギナーズラッキー”いうのがあるねん。ゲンええねん。お客はチップはずむし」
「どんな営業努力したらいいんですか?」
「化粧とかにっこりするとか優しくするとか。怖い顔してたらあかんわな。疲れてたら顔に出る、女優と同じやね」
「私、ふだんパンツなんですけど」
「そりゃあ、スカートやな。あなた、きれいなワンピースでも着たらもっときれいになるよ」