佐々木は奨励会時代、連勝規定で昇級・昇段をしたことがない。爆発力に欠けていたとみることもできるが、一歩一歩着実に力をつけていったということもできる。三段へ昇段したのは2013年の5月。同年の10月から始まる第54回三段リーグが、佐々木にとって初の三段リーグ挑戦となった。
「今回の次点がチャンスだと思って前向きになるように」
佐々木 三段リーグには5期いました。初参加のリーグが4連敗スタートで、レベルの高さを思い知らされました。5、6回戦で連勝できたんですが、その相手はどちらも自分と同じ新三段だったんです。先輩から「まだリーグは始まってないね」と言われて、そういうものかと怖い思いがありました。
だが、2期目の第55回リーグで佐々木は勢いに乗る。小学生名人戦で名をなさしめた近藤誠也、四段昇段候補の筆頭格にあった増田康宏らを破って、リーグ最終局を迎えた時点では13勝4敗。あと一局を勝てばプロへ手が届くのだ。
佐々木 最終局は相当に悔いが残りました。こちらが優勢で、寄せに行くか手堅くいくかという局面でしたが、そこで幻の詰みを見てしまい、手堅い順を逃して逆転負けです。終わった後すぐに帰宅しましたが、他力昇段の可能性があるのは知っていたので、負けた反省とひょっとしたらという気持ちが頭をぐるぐると駆け巡っていましたね。その入れ替わりがきつかったです。次点に終わって、師匠(深浦康市九段)から厳しめのメールをいただきました。
―― どのような内容だったのでしょうか。
佐々木 「より強くならなくてはならない」という内容でした。もちろんダメージはありましたけど、師匠のメールを受けて気持ちを変えたのが、自分の人生の中でハイライトの一つとは思っています。5期目の第58回リーグで2つ目の次点を獲得しましたが、その時は9勝3敗から競争相手に連敗し、不甲斐なさから頭を丸めました。最終日を迎えた時点で自力昇段があるのはわかっていたのですが、1局目は退会が決まっていた折田さん(翔吾四段。奨励会退会後にプロ編入試験を受け、合格)に完敗し、「また昇段はないか」と。ですが前回は頭ハネで昇段を逃したので、来期に向けて一つでも順位を上げることだけを考えました。
佐々木の三段リーグ最終局は260手超えの熱戦となったが、黒田現五段に勝利。その結果、佐々木は2つ目の次点を獲得した。奨励会三段リーグは原則として上位2名が四段昇段の権利を得るが、それとは別に、次点(3位)を2回取ったものに「フリークラス四段」の権利が与えられる。ただし、フリークラス四段はプロ棋士として認められるが、その時点では順位戦への参加資格がない。そして10年以内に規定の成績を上げて順位戦へ参加できないと、引退を余儀なくされる。フリークラス入りを放棄して三段リーグで順位戦を目指す選択肢もあり、20歳当時の佐々木は難しい判断を迫られた。
佐々木 2度目の次点獲得をまったく想定していなかったので、どうするかを考えていませんでした。権利があることを知らされて、すぐに師匠へ電話しました。普段は電話することがなく、奨励会例会の日に電話したのは初めてかもしれません。「リーグでもう少し鍛えたほうがよければ頑張ります。ただ自分としては三段リーグはすごくつらいので、(権利を)使いたいです」と言った記憶があります。翌日、千駄ヶ谷の喫茶店で話し合うことになりました。電話をかけていた時、周りに三段が何人かいて「使う一手でしょ」と驚かれましたね。