順位戦ではA級、竜王戦では6組という棋士はいない
そのことを踏まえて、先崎や八代の例とは逆に、順位戦ではA級にいながら竜王戦では6組という棋士はいたかを考えてみるが、結論を先に書くとゼロである。6組はおろか、5組もいない。A級在籍の棋士で竜王戦のランキングがもっとも下だったのは2001年の加藤一二三九段で、4組だった。だが、この時の加藤はすでに還暦を超えており、20代の八代や先崎(当時)とは同一視できない。
竜王戦より順位戦の出世のほうが早かったと言えるのは北浜健介八段だろうか。北浜は2003年にB級1組に昇級したが、竜王戦は当時まだ5組だった。しかし後に2組まで昇っている。
そしてベテランながら順位戦より竜王戦で踏ん張っていた棋士もいる。現役最高齢の桐山清澄九段は2012年にC級1組へ陥落したが、その時竜王戦は2組だった。その5年前に還暦ながら3組で準優勝し、2組に復帰したのだ。
また高橋道雄九段は2015年に55歳で1組復帰を果たしている。1組復帰の半年前には順位戦でC級1組へ降級という憂き目を見ていながらである。そして復帰後の2016年の1組では糸谷を破って、その地位を維持している。
筆者はその1局の観戦記を担当したが、当時の高橋は自身の生活リズムについて「棋士というよりライターに近かった。他はインストラクターかな」と振り返っている。普及活動に重きを置きながらもトップクラスの地位にあるのは、さすがというしかない。
間もなく初夏を迎えるが、将棋界では竜王戦の決勝トーナメントが始まり、順位戦がB級2組から順に開幕する。棋士それぞれのプライドが掛かる、新たなる戦いを楽しみにしたいと思う。
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この記事の筆者・相崎修司さんは文春将棋ムック『読む将棋2021』にも寄稿しています。
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