優れたテーゼに対しては、できるだけ多くの答えが返されるべき

 それが今すでに日本のアニメ界で多く活躍している女性演出家の誰かになるのか、あるいは新しい文化の中から現れる次の世代の才能になるのかはわからない。あるいは女性に限らず、別の感性をもつ男性の演出家かもしれない。あるいは進化した庵野秀明自身かもしれない。

 でもそれが誰であれ、もしそれが作られるなら、それはきっとこれまでのエヴァンゲリオンがそうであったように、自己の肯定に止まらず他者との橋を架ける、テーゼとアンチテーゼ、男性と女性を激しく巻き込む物語になるのではないかという予感がする。

 いつか90年代の庵野監督のように、若く才能ある女性監督が「あなたの声を私のエヴァにください」と声優たちの前に現れるかもしれない。そしてかつての宮村優子のように、作品への他者として導入された若い男の子の声優が「あの監督、リアルな男の気持ちなんか全然わかってないっスね」とアフレコ後に荒れるのをなだめながら、三石琴乃や山口由里子が「まあまあ、監督には監督の考えがあるんだよ」と笑って美味しいお酒を飲むような、そんな騒がしい未来がまだこのエヴァンゲリオン・ユニバースには待っているような予感がするのだ。

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アスカを演じた宮村優子のYouTubeチャンネル『宮村優子・岩田光央のおかわりできますか?

 いつか綾波やアスカのために語られる未来の物語があるとしたら、それはもしかしたら碇シンジに対しても、あの理想の彼女みたいなマリを引き連れて人生の階段を駆け上がって行った神木隆之介のシンちゃんとは別の答えを見つけるのかもしれない、と思う。

 一つの優れたテーゼ、問いかけに対しては、きっとできるだけ多くの答えが返されるべきなのだ。なにしろ少年が神話になった後で少女が何になるのかという残酷な天使のアンチテーゼについて、本当によく知っているのは僕たちではなくて、林原めぐみや宮村優子たちの側なわけだし。