「いったん傷つくと、和解した後も…」
「週刊新潮」の記事では、一度だけ、1957年の正月に上野村に戻ったときの印象を「前とはだいぶ違っているが、といって、私や私の家族に対するシコリが完全に氷解したとはいえないものがあったようだ」と述べている。
映画「村八分」は、一家と住民の和解をほのめかすラストシーンだったが、現実は違った。宮本常一「民俗のふるさと」(「日本の民俗」第1巻所収)は、村八分を受けた家について「いったん傷つくと、和解した後も、その家はいつまでも白い目で見られる」と書いている。石川家の人々にとっても上野村はそんな場所だったのだろうか。
皐月さんは大学卒業後、全気象労働組合に勤務。結婚して2児を育てるかたわら、婦人民主クラブの組織部長と書記長を務めた。2015年1月9日付中日新聞朝刊連載企画「戦後の地層 覆う空気(7)ムラ社会の少女」が彼女を取り上げている。記事によれば、2006年には自衛隊イラク派遣違憲訴訟の原告の1人にもなったという。記事の末尾で79歳の彼女はこう語っている。
「民主主義は努力し続けないと手に入らないもの。モノを言い続けるしかないのよ」
【参考文献】
▽ 神崎直美「近世日本の法と刑罰」 巌南堂書店 1998年
▽「富士宮市史 下巻」 富士宮市 1986年
▽神崎清「現地調査記録 静岡県の村八分をめぐって」=「教育技術」1952年9月号臨時増刊「脱皮する日本教育」=所収
▽「角川日本地名大辞典」 角川書店 1982年
▽「静岡県政の百年 その歩みと群像」 静岡新聞社 1978年
▽石川さつき「村八分の記 少女と真実」 理論社 1953年
▽「静岡県史通史編6近現代二」 静岡県 1997年
▽我妻東策「日本農業の話題」 地球出版 1954年
▽宮本常一「民俗のふるさと」=「日本の民俗」第1巻(河出書房新社、1964年)=所収
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生々しいほどの強烈な事件、それを競い合って報道する新聞・雑誌、狂乱していく社会……。大正から昭和に入るころ、犯罪は現代と比べてひとつひとつが強烈な存在感を放っていました。
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