7月1~2日、静岡地方法務局の北川一松・局長らが同村を実地調査した。その結果は7月3日付の新聞に掲載されたが、報じ方は驚くほど違う。(全2回の2回目。#1から読む)
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社会面トップで「“一家の生活を脅す” 直ぐ人権擁護局に報告 “村八分”に静岡法務局が結論」の見出しは朝日。「『法律上は“村八分”を構成しないと考えられるが、自然発生的に形づくられる絶交状態は、石川さん一家の社会生活と名誉維持を危うくするに至った』との結論を出し、直ちに法務府(当時)人権擁護局に報告。今後の措置を講ずることになった」とした。
対して同じく社会面トップの静岡新聞は「“村八分”は構成せず 部落民に隣人愛を要望」の見出し。北川局長が「調査の結果による自分の意見として、佐野村長に対し、隣人愛を特に要望した」と書き、局長の見解をまとめている。
それによれば、替え玉事件と関係があった人々と石川家の間に感情的なわだかまりができ、自然に双方の交際が阻隔(そかく=邪魔して隔てる)するに至った。地区の人たちの間に、石川家に対する差別待遇や絶交について相談や申し合わせをした事実は認められない。従って村八分を構成しないと考えるが、地区の人々には隣人愛の精神をもって速やかに円満明朗な交際を回復させるよう熱望するとした。
記事には、「村八分の事実がないことが明白になってほっとした」という佐野村長と、「今度の問題で新聞の報道が社会にもたらす影響のいかに大きいかを痛感させられた」との北村義平・上野村社会教育委員長の談話が付いている。
朝日の記事によれば、この人物は、現地調査が行われていた法務局上野出張所に、「個人の人権と村の名誉と、どちらが大切か」と怒鳴り込み、警官に止められた。同日付朝日夕刊1面コラム「三角点」に「個人の人権と村の名誉とどちらが大切か、と社会教育委員が怒鳴って名誉ある村八分弁護」と皮肉られた。
静岡民報も「村八分ではない 北川法務局長 上野村で語る」の見出しだが、記事は3段で短い。読売の静岡版も調査結果を「村八分の事実はない。単なる個人間の感情の問題にすぎない」と断定的に報道。「佐野村長は至急部落会を開いて感情融和を図る一方、石川さん一家の生活難に対しても温かい手を差し伸べることになった」と書いた。
読売は前日7月2日の静岡版でも、皐月さんの父親が調査に対して「特に村八分といったようなことはない。感情的な問題でこれ以上騒いでもらいたくない」と述べたことを「被害者も事実否定」の見出しで報じていた。
法務局長の見解は同一なのに、“問題に火をつけた”朝日は、石川家の人々の生活と名誉が危機に陥ったことを重視して村や地区側の姿勢を問題視したのに対し、地元紙と読売は「村八分の事実はなかった」点に重きを置いて擁護に回った。
朝日の記事では、父親は「結局、諦めてじっとしておればおさまると思う。近所の口もあるので、そっとしておいていただきたい」と語っている。これが「村八分」を受けた側の本音だろう。