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 ここで1回目の投票が行われ、『ナイル』が『羊』を逆転して首位に。『ナイル』『戦場』『羊』の上位3作を残して、いよいよ議論は終盤戦に。

「『ナイル』の主人公(大手商社に勤める30歳女性)は僕らとかけ離れているが、友達を作りたいともがく気持ちは僕にもよくわかるし普遍性がある。『ナイル』を推したい」

「私も『ナイル』を推す。主人公は濁ったプールの中でもがいているみたい。いくら苦しくても人は人と関わらざるを得ない。怖い小説だけど他の人の感想を聞いてみたいし自分が成長したら、もう一度読み返してみたい」

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「私は『戦場』を推す。米兵の視点で戦争を描いていて勉強になる。修学旅行で沖縄に行った時も、『戦場』を思い出して考えさせられた」

「小説を教訓的に読む必要はないんじゃない?」

「いや、教訓云々を抜きにしても、僕も『戦場』を推す。戦争=つらいというイメージがあったが、戦争の中にも出会いがあり、友情があるという視点に感激した」

「議論は『ナイル』がいちばん盛りあがった。話は暗くて重いけど、『こんな子いるよね』と友達と話すとすごく心が晴れる。みんなの意見を聞いて心が揺れている。『戦場』も魅力的で大好きだけど、『ナイル』の方が人に勧めていっぱい話せるかな……」

 ここで最終投票が行われ、冒頭で紹介した通り、『ナイル』が受賞作と決まった。

「意見を交わす中で、悩みつつも自分の考えを変えたり、深めたりしていった高校生がたくさんいた」(前出・伊藤氏)ことが、予選会の評価を覆す結果に繋がったのだろう。

 参加した高校生たちは、読んだ後、誰かと語り合う楽しさを発見し、それを「高校生直木賞」を選ぶ判断基準にしたように見える。読んだ「その先」までもが、彼らにとっては読書の範疇なのだ。

「読書は孤独な趣味だった。この賞に参加するまで、まさか他の人と本の感想を語り合えるとは思わなかった」

「ふだんは文庫本しか買えないので、小説の新刊を単行本で読めるだけでうれしい」

 という声を聞くと、読書離れなど、どこの国の出来事かと思える。中にはこの賞への参加が“部活”のような盛り上がりを見せている高校もあり、過去、参加した生徒の保護者から、「うちの子はこの賞があるから学校に通っている。なければとっくに登校拒否になっていた」との声が寄せられたこともあるそうだ。

 ユニークな試みが長く続くことを期待したい。

高校生直木賞の詳細は、http://koukouseinaoki.com
賞への参加、賛助会員に関する問合せは、info@koukouseinaoki.com(高校生直木賞実行委員会)まで