お前の家族全員死ね」19件に及ぶ凄惨なイジメ行為があったと認定
それでも、第三者委員会は「事実で勝負する」姿勢が大事です。大津ではゼロベースから事実認定を行いました。例えば、自死に至る被害生徒の行動に関しての市教委側のある推論について、僕の教師経験からすると、「中学2年生の男の子だったら、そんなことはまずしないだろう」という確信に近いものがあったのですが、当時の第三者委員会の委員長を務めた元裁判官にそのことを伝えると『それは先生たちの経験主義です』と言われてしまったんです。
そこで、僕たちは、被害生徒がそのような行動をとることはあり得るのかどうかしっかり検証しようということで、精神科医や虐待問題の専門家、イジメ問題の権威らから2時間ずつ、レクチャーを受けました。現場も念入りに調べ、改めて出した結論は、結果的には僕の推論どおりだったのですが、第三者委員会の調査ではそうやって先入観を捨てて、一つ一つの事実を慎重に検証していったのです。
その結果、最終的には、被害生徒が複数の同級生から学校の教室、トイレ内、廊下などで頻繁に暴行を受けていたこと、口や顔、手足に粘着テープを巻き付けられたこと、「お前の家族全員死ね」などの言葉を浴びせられ、自殺の練習まがいの行為までするように強要されていたことなど、19件に及ぶ凄惨なイジメ行為があったことを認定しました。つまり、第三者委員会がやらなければいけないのは、先入観や経験主義に陥るのではなく、かかわりのあった生徒や教師、家族や親族、ご近所にも範囲を広げて聞き取りをして、あいまいなことを丁寧に消していく作業なのです。
生徒の聞き取り以上に先生の聞き取りには注意せよ
また、第三者委員会は「閉鎖的な職員室文化」と向き合うことも強いられます。どんな学校にも少なくとも5~6人は良心的な教師が必ずいるものです。彼らはイジメに対しても問題意識を持っていて、周囲には「あの時、確かにこんなことが起きていた」と事実を話していたりする。しかし、いざ第三者委員会の調査となると、突然口をつぐんだり、ウソの証言を始めたりするのです。
それは彼ら良心的な教師に対して、村社会的な論理が働くからです。周りの先生から『お前が事実を話したら校長はどういう処分を受けるか。教育長にまでこんな迷惑が掛かる』などと責められるんですね。すると教師は自分一人の問題では済まないと気付き、その場の空気にも流され、口をつぐんだり、『よく覚えていません』『記憶にありません』などと証言を変えてしまうわけです。それがいけないことだと分かっていても、内向きの論理に捉われてしまう。
こういったことがあるので、生徒の聞き取り以上に教員の聞き取りにも注意しなければなりません。もとより、子どもたちは先生の言動をよく見ています。信頼する先生や大人が態度を変えてウソを言うことに、子どもの心は大きく傷つきます。子どもに恥じない人間教師であってほしいと思います。