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死の危険性を自覚したのは心臓の手術でした

 膀胱がんの手術より、死の危険性を自覚したのは心臓の手術でした。2008年(平成20年)に、冠動脈2カ所に梗塞が見つかった。1つは90%梗塞、もう1つは75%梗塞です。運動負荷検査でも、シンチ検査でも、CT造影でも一見してわかるヤバい状態でした。そこで手術でステントと呼ばれる補強筒を血管内に埋めたんです。

 この手術では、まず左手首からカテーテル(細長い管)を挿入して、血管の中を心臓まで伸ばしていきます。カテーテルを通じてステントを送りこむんですが、ステントの挿入前に、バルーン(小さい風船)で血管の狭窄部位を膨らませる。このときバルーンには20気圧もかけられます。自動車のタイヤの空気圧でもせいぜい2、3気圧ですから、想像を絶する高圧です。一挙に20気圧かけられるわけではありません。「まだ膨らまないな。あと何気圧上げてください」とか医者がいいながら徐々に圧を加えていく。手術中こちらの意識はハッキリしていますから、そういう声がすべて聞こえてくる。どんどん気圧が上がっていくうちに、「いつパンと破裂するかわからないな」と思いました。20気圧と聞いたときは、「エッ嘘だろう」と思いました。

――怖かった?

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立花 死んでも不思議ではないとは考えましたが、意外に冷静でした。場数を踏んだベテランの医者でしたから、まかせる以外ないと思ってました。手術後、「バルーンが破裂する可能性はなかったんですか」と医者に聞きました。そしたら「ある」と(笑)。ただし、もし破裂して大出血しても、すぐ開胸手術に切り替えるから、大丈夫だという話でした。

©文藝春秋

インドでは本当に死ぬ思いでした

――死にかけた経験は他にもありますか?

立花 インド旅行中に死にそうな目に遭いました。1974年(昭和49年)にオランダ航空(KLM)から新航路の開設を記念して初フライトに招待したいという話が来て、喜んで便乗して、中東諸国をめぐりました。イラン、レバノン、シリア、エジプトの遺跡を徹底的に見てまわって、最後に寄ったのがインドでした。そのときそれまで経験したことがない高熱を発したんです。でも、薬もなく、手持ちの金もないからとにかく寝ているしかなかった。結局、何も食べずに数日寝ているうちに突然回復しました。

――原因は?

立花 病院に行っていないので正確にはわかりませんが、一種の風土病だったんでしょうね。旅先では水に気をつけろとよくいわれますが、水を一切飲まないわけにはいかないから飲む。金がないからどこでも土地の水道水です。それであちこちの土地で体調を崩すわけですが、インドでは本当に死ぬ思いでした。