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「もっとも大事なのは僕の元気」草彅剛が語る「徳川慶喜を演じる“秘訣”」

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全身くまなく気を遣う細かいルール

 部屋の敷居をまたぐときは、左足から入って右足で出ないといけないとか、畳のへりを踏んでは駄目とか細かいルールがいっぱいあって、結構難しいです。「今のはカメラに映っていなくて見えないからいいんじゃないかな?」と僕は思うのだけれど、先生はしっかりとチェックされていて、「あ、踏んだ!」とおっしゃる。「いやいや、撮っているのは上半身だから。下は映ってないからいいじゃないですか」と答えても、「はぁ~」とがっかりされて(笑)。だから「これ、踏んではいけないんだ」とか、いつも何かを意識しながら演じている。撮る位置に関係なく、全身くまなく気を遣っています。

 天子様とか、慶喜よりも位の高い人がいる部屋に入るときの所作も決められていて、腰を少しかがめて入るんですよ。僕は覚えがよくて結構すぐにできたりもするのですが(笑)、間違えそうになるとここでも「あっ!」と声が聞こえる。そのときは集中してパパッと対応しています。

 でも、どれも初めての経験だから楽しんでいます。みなさんのお怒りを買わないようにしながら(笑)。

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 作法のいっぱいある現場ですが、それは高貴なものが日本に存在していた証ですよね。現代の感覚とは全く違う。服装もそうだし。その違いがあってこそ、やっぱりこれが時代劇かなと思っています。

台本は読み込まない

 今回の大河ドラマには複数の監督(演出)がいらっしゃいます。1話ごとにそれぞれの監督の熱意がすごく伝わってくる作りで、いろんなエピソードが込められている。監督の気持ちを感じると、僕のなかで慶喜の気持ちが盛り上がっていきます。監督の熱量に自然と僕も熱くなって、慶喜を演じられているんです。監督の気持ちに触れて、応えていくような感覚かな。

 だから、台本は読み込んでいません。監督の温度を感じとることが一番大切。これは慶喜にとって大変なことが起きているなとか、熱くなっているなとか、反対に冷めているのかなとか、監督のイメージをつかむ。僕自身は演技について細かいことはよく分からないし、演技プランも作り込んでいません。

草彅剛さん

 撮影では毎回、最高の舞台が用意されているんです。スタジオへ入ると慶喜へと変わる準備に結構、時間がかかります。お着物を着て、かつらもつけるとなると1時間以上はかかる。でも終わるころには照明がばっちり決められていて、スムースなカメラワークもスタンバイされて、お膳立ていただいた晴れの舞台が作られているんです。共演者のかたやスタッフのみなさんと事前にミーティングの必要もないくらい、すべてが僕のために仕上げられているんです。