芸能人や会社経営者の脱税や所得隠しは度々世間を騒がせる。しかし、その詳細な手口が報じられることは決して多くない。彼ら彼女らはいったいどのように「税」を逃れてきたのだろうか。

 ここでは、ベテラン国税記者の田中周紀による『実録 脱税の手口』(文春新書)の一部を抜粋。フルーツ青汁の大ブレイクで注目を集める裏で行われていた脱税の手法について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

架空広宣費計上で脱税を始めた15年9月期

 すっきりフルーツ青汁の類稀なる大ブレイクにより、俄かにインターネット通販業界の“寵児”に躍り出た三崎氏。だが、新興ビジネスで短期間に急成長した経営者の誰もが直面するもう1つの問題=法人税額の激増に頭を抱えることになった。

©iStock.com

 メディア社(編集部注:三崎氏が経営していた株式会社メディアハーツ)が脱税の罪に問われた期間の法人所得は、15年9月期が約5490万円だったのに対し、17年9月期は実に約34億9718万円(16年9月期は後述する事情で脱税せず)。法人税(地方法人税含む)額も15年9月期の約1373万円に対し、17年9月期は約8億5363万円と激増し、三崎氏は困惑を隠せなかった。

 フルーツ青汁がブレイクし始めた15年春のある日、三崎氏は個人的用途に使う資金を借りているU氏にこんな不満を漏らした。

「今年の業績がいくら好調でも、来年もそうとは限らない。まさかの時に備えてカネを残しておかないと、税金支払いに充てるカネを工面できなくなる。いくらメディア社の収益が増えたところで、この先何が起こるか分からないので、会社のカネも自分の好き勝手には使えず、Uさんへの借金返済も捗らない」

 するとU氏は、三崎氏にある知恵を授けた。

「インターネット広告会社を経営している知人の加藤豪氏に頼めば、君が自由に使える裏金を工面してくれるはずだ」

 まさに“悪魔の囁き”である。15年5月、U氏のアドバイスに従って加藤氏と連絡を取った三崎氏は、裏金作りへの協力を依頼。すると加藤氏はこんなプランを三崎氏に持ち掛けた。

「こちらが指定する会社の口座に広告宣伝費名目でメディア社が送金してくれれば、その10%相当額をこちらの取り分として差し引き、残る90%相当額を現金でキックバックする。それでよければ協力させてもらいます」

 いくら自身が設立して代表取締役社長を務めるメディア社とはいえ、会社のカネを自分の好き放題に使うことは許されない。現状に不満を抱いていた三崎氏にとって、加藤氏の提案は“渡りに船”だった。

「分かりました。では、その方法でお願いします」

「承知した。メディア社が架空の広宣費を支払う相手先を探すので、少し待って欲しい」

 このあと加藤氏は旧知の飯尾氏に声を掛けて、脱税工作に利用できる会社を提供してくれるよう依頼する。飯尾氏の了承を得て、加藤氏は三崎氏に結論を伝えた。

「メディア社の資金を消費税込みの広宣費に仮装して、飯尾さんが実質的に管理しているペーパー会社『サイバーマーケティング』の口座に送金してほしい。その金額の10%相当額をこちらの取り分として差し引いたあと、残る90%相当額を君に現金で渡す。サイバー社に架空発注された広宣費分の売り上げに課せられる法人税は、責任を持ってこちらで納めておく。これで了承してもらいたい」