政府は2011年度の税制改正大綱で「健全な納税者意識のより一層の向上に向け、今後とも官民が協力して租税教育のさらなる充実を目指す必要がある」とうたった。しかし、世間を賑わせる脱税事件はいまだに多い。“租税教育のさらなる充実”は、果たされているのか。
ここでは国税記者として長年活躍を続ける田中周紀氏の著書『実録 脱税の手口』(文春新書)の一部を抜粋。確定申告を7年間放置し、結果的に1億1550万円の追徴課税を命じられたAV女優、里美ゆりあ氏のエピソードを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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3億円稼ぐも確定申告を知らなかった人気AV女優
こうした租税教育のお寒い現状が引き起こした悲劇が、14年11月に表面化した人気AV女優、里美ゆりあさん(29)の所得隠しだろう。彼女は13年までの7年間、約2億4500万円の所得を全く申告していなかったとして、重加算税を含む約1億1550万円を追徴課税された。この件について里美さん自身は、17年11月に上梓した自伝『SEX&MONEY 私はそれを我慢できない』(展望社)で自身の想いを語っている。彼女の身上に関する記述は原則として、この自伝から引用した。
1984年に母親の愛人の子として横浜市鶴見区で生まれた里美さんは、小学6年生でセックス初体験。中学にはあまり通わず、高校も1カ月で退学して、援助交際や風俗パブのホステスとして働くなど、奔放な毎日を送った。
03年に「小泉彩」の名前でAV女優としてデビューし、08年に「里美ゆりあ」と改名して再デビューすると、「痴女女優」というハードなドS(極端なサディスト)キャラと、持ち前の白い肌と長い舌を生かしたプレイで人気に。これまでに400本以上のAV作品に出演し、ピーク時には単体(特定メーカーと専属契約して出演する作品)1本で数百万円を稼ぐ売れっ子になった。AV女優やグラビアアイドル、モデルなどで編成する女性アイドルグループ「恵比寿マスカッツ」6期生としてバラエティ番組に進出し、テレビタレントとしても活躍を続けている。
貯めも貯めたり3億円
16歳の時、同棲していたDV男と別れた里美さんは、離婚して別々に暮らしている父親の指示で、父方の祖母と大叔母が大家である川崎市内のアパートの一室(2DK)に転がり込んだ。アパートのポストには鍵もなく、当初は風呂にシャワーも設置されていなかった。セキュリティなど存在しないも同然のボロアパートだったが、同居していた祖母と大叔母が亡くなり、AV女優としてブレイクしたあとも、彼女は都心のマンションなどに引っ越すことなく、月5万円の家賃を払って、ここで1人暮らしを続けた。それまでの経験から他人を信用できず、以前から「1人で生きていくしかない」と考えていた里美さんは、そのためのカネをひたすら貯め込もうと決意した。