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連載この鉄道がすごい

「スピードで勝てなくても、価格で勝負できる」近鉄vs国鉄、“名阪特急”競争の切り札

「こだま」「ビスタカー」名列車競演から

2021/08/01
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「直通特急」の運行、「名阪ノンストップ特急」の誕生

 12月12日、上本町~近鉄名古屋間の「直通特急」の運行が始まった。伊勢中川駅の停車とスイッチバックがあるとはいえ、所要時間は2時間30分まで短縮された。「こだま」には敵わないまでも、準急には勝った。サービスも抜かりない。直通特急の代表車両として、新型ビスタカー「10100系」が投入された。国鉄準急への追撃が始まる。

 1960年には「名阪ノンストップ特急」が誕生する。実際には伊勢中川でスイッチバックするけれども客扱いのない「運転停車」とし、9往復を設定した。

 次の大改革は1961年だ。さらなるスピードアップを図るため、伊勢中川駅の手前に大阪線と名古屋線を短絡する420メートルの線路を開通させる。これでスイッチバックが解消され、さらなるスピードアップが可能となった。上本町~名古屋回りの所要時間は2時間18分。ついに国鉄の準急、急行に勝利した。大阪側では鶴橋駅にすべての特急が停車するようになり、ノンストップ特急は「甲特急」、主要駅停車型特急は「乙特急」と呼ばれた。

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大阪線と名古屋線直通列車は伊勢中川駅でスイッチバックしていた。このスイッチバックを解消するために、伊勢中川駅に寄らず、両線を短絡する線路を作った(地理院地図を加工)

 次のターゲットは「こだま」とばかりにスピードアップが続けられ、1963年9月にはすべての列車をゼロから設定し直す「白紙ダイヤ改正」を実施した。甲特急の名阪間所要時間は2時間13分となり、ついに国鉄特急より早く到達できるようになった。ルートとしては遠回りだったけれども、新幹線と同じ標準軌で安定した走行ができたこと、国鉄路線と違い、特急最優先のダイヤを設定できたことも功を奏した。

 名阪間のシェアは近鉄7、国鉄3。近鉄の大勝利だ。

 しかし、この勝利も長くは続かない。

東海道新幹線は1964年に開業した ©️iStock.com

 1964年、東海道新幹線が開通する。「ひかり」の名阪間の所要時間は1時間8分。従来の半分だ。「こだま」は約1時間半。どちらも近鉄特急より速く、運行本数は1時間あたり合わせて2往復。近鉄に勝ち目はなかった。名阪特急は廃止こそ免れたけれど運行本数は激減。臨時列車並みの2両編成という寂しい姿もあった。ライバルだった国鉄在来線の優等列車も壊滅する。