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「撃たれた鹿のところにキツネがバッと駆け寄っていって…」 “クマ撃ち”を描く作者が感じた山中での野生のリアル

「撃たれた鹿のところにキツネがバッと駆け寄っていって…」 “クマ撃ち”を描く作者が感じた山中での野生のリアル

2021/08/06
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「ああ、法律なんて意味ねえな」と思った理由は…?

──そういう“法律のグレーゾーン”ともいえる部分は、第三者の目というか、制作者の目から見てどう感じましたか?

安島 難しい質問ですよね(笑)。ただ僕は、法律というものはあくまで人間の世界のルールだと感じています。ちょっと脱線しますが、作中でキツネが、人間が撃った鹿の肉を奪うシーンがあるんです。あれ、実際に見たんですよ。ハンターさんと一緒に雪山に登って、ハンターさんが300mくらい離れたところにいた鹿を撃ったんです。そしたらキツネが僕らと違う方から来て、撃たれた鹿に向かってバッと走っていったんですよね。ハンターさんがそれを見て、慌てて「コラーッ!」ってキツネを追い払ったことがあって。

 それを見た時に思ったのが、山の中とか自然界の中だと、人間より足の速いキツネの方が勝ったりするわけじゃないですか。頭が良いとか悪いとか、銃を持っているとかそうでないとかいう問題じゃなくて。それを見て、「ああ、法律なんて意味ねえな」と思ったんですよね。その上で、「鹿肉をどうしても獲らなきゃいけない」という理由があるとするならば、仮にそれが撃っちゃいけない動物とか、撃っちゃいけない状況だったとしても、撃つわけですよね。そういうことを考えると、ただ法律に縛られるだけというのもフィクションの中とはいえ、ちょっと否定したいところがあった。

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状況を考えて正しい判断ができる人だったら…

──法律はあくまで「人間界のルール」ということですよね。

安島 基本的に法は絶対、遵守しなきゃいけないと思っています。安全第一だし、それは自分でも他人でも、当然のことだと思います。ただ、山の中、しかもフィクションの中ですから、それをちょっと否定することでみんなにも少しそういうことについて考えてもらいたいというのはありました。

──実際、昔は罠にかかった動物に銃でトドメ刺をすことが法律に引っかかると言われていました。ところが結局、いまはそれができる法解釈になった。そういう経緯もありますし、問題意識を持つことが大事なのでしょうね。

安島 時代とともにその辺の解釈は、常に変わるかもしれませんからね。

──ただ、その辺りの考え方は命がかかわる部分だから非常に難しいです。

安島 難しいです。その辺の解釈を上手く考えられる人って少ないと思うんですよね。例えば、今日の札幌市街でのクマ出没事件でもそうですけど、本来なら市街地の、銃を撃っちゃいけない場所じゃないですか。でも、最終的には「撃っていいよ」という命令が出て、クマを撃っている。言ってしまえば、状況を考えて正しい判断ができる人だったら、やっていいということなのだとは思います。ただ、その辺は本当に難しいと思いますね。