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日米戦争は何年かかると思っているのか

 「アメリカが突きつけてきた石油の全面禁輸問題が今日の危機の中心かと思われる。海軍は2年分くらいは備蓄していると聞くが、陸軍はどうなのか?」
 
――列席のものがそんな超機密を知っているはずはない。無言がしばし支配します。

清浦奎吾 (ボソボソとした口調で)「野村大使が対米交渉の妥結の見込みありといってきているというのだが、なぜ近衛が……」

――とにかく、重臣にくわしい情報は伝えられていないので、近衛の突如の政権投げ出しが不思議でならなかったことでありました。

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木戸 「(9月6日の)御前会議で、じつは10月10日までに交渉妥結しなければ戦争、と決定されているのである。ところが、陸軍との意見の相違から、近衛内閣は行き詰まらざるを得なくなった。しかも、米国から(頂上会談についての)いい返事を得ないうちに、その10月10日が過ぎてしまったのである。それゆえに……」

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若槻 「エッ、そんな……日華事変(日中戦争)ですでに4年も費やしている。その上に戦争をはじめたら、日米戦争は何年かかると思っているのか」(と、米内光政の顔をみる)

米内 (渋々という口調で)「海軍が勝つといっているのは、太平洋を土俵にして日米の艦隊が正面から取っ組めば、多分勝つ自信があるということであって、長期戦となれば話は別だ」(と、いささか頓珍漢に答える)

広田弘毅 「要するに、中国での戦争がつづいているのであるから、政治も大本営の意向中心でなければならない。(首相選出も)大本営の希望を聞く必要はないのか」

――軍部の圧力に弱い広田の面目躍如です。

木戸 「とにかく陸海軍が完全に一致することが、いまは国家のために絶対必要であるが、といって統帥部から(首相の)候補者を出すことは、よくよく考えなければならない」

林銑十郎 「いっそのこと、皇族のご出馬を願ってはどうか」

木戸 「いかん、いかん。難局解決に皇族を当たらせることはいかん。万一の場合には、皇室を国民の怨府としてしまうことになる」