「戦場から風俗まで」をキャッチフレーズに国際紛争、大規模自然災害、殺人事件、風俗業界の取材を行ってきた小野一光氏は、かつて20年以上、毎週1人の割合で風俗嬢のインタビュー取材を続けていた。

 性暴力の記憶、毒親、貧困、セックスレス――。それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たちは一体何を語るのか。

 ここでは小野氏の新著『限界風俗嬢』(集英社)の一部を抜粋。処女でありながら風俗嬢として働き始めた女性・カオルさんのエピソードを紹介する。(全5回の1回目/続きを読む

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リクルートスーツのSM嬢

 その場にそぐわない服装、というのがある。じつは、彼女との初対面がそうだった。2年前の春のこと。連載をしていたスポーツ紙で取材相手のSM嬢として、磔台の置かれたプレイルームに現れたカオルの服装は、リクルートスーツだったのである。正確なことをいえば、その時点で彼女はすでに会社勤めをしていたので、“リクルート”ではないのだが、セルフレームの眼鏡に着慣れていないスーツ姿は、どう見ても就職活動中の女子大生だった。しかも彼女は、入社して間もない会社で新入社員としての仕事を終えた足で、店に出てきたのだという。

 以前、コスプレをするイメクラの取材で、OLの制服を着た女の子がいるにはいたが、それはあくまでも実生活とは異なる衣装。これほどまでにリアルな服装で現場に現れた女の子に会うことは、滅多にない。

©iStock.com

実は難関国立大学卒&一部上場企業の新入社員

 聞けば、カオルが現在の店に入ったのは、就職前の2月とのこと。それまでにSMの経験はなく、初体験だと語る。ちなみに、ということで就職先の“業種”を尋ねると、彼女は躊躇なく、一部上場企業である外食チェーン会社の“社名”を挙げた。ここまではっきりした物言いのときに噓はない。本当にそこで働いているのだろうと思った。続いて卒業した大学に質問が及ぶと、あっさり首都圏の難関国立大学の名が出てきた。これも恐らく真実なのだろう。

 いやあ、なんだか面白い女の子に当たったようだ。その場にいる私の頰は緩んでいたに違いない。

 私は彼女への取材結果を〈いかにも瑞々しい新入社員といった印象〉との書き出しで、店の紹介に続いて次のような記事にまとめた。

「いまの店に入ったのは2月で、初めての風俗です。もともとSMに興味があり、この仕事をしている友人に誘われたのでやってみることにしました」

 店でのプレイは、すぐに気持ちよくなることができたという。