「戦場から風俗まで」をキャッチフレーズに国際紛争、大規模自然災害、殺人事件、風俗業界の取材を行ってきた小野一光氏は、かつて20年以上、毎週1人の割合で風俗嬢のインタビュー取材を続けていた。

 性暴力の記憶、毒親、貧困、セックスレス――。それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たちは一体何を語るのか。

 ここでは小野氏の新著『限界風俗嬢』(集英社)の一部を抜粋。処女でありながらSMデリヘルで働いていた女性・カオルさんについて紹介する。(全5回の2回目/続きを読む

ADVERTISEMENT

◆◆◆

男の人に恋愛感情を抱くのは難しい

 彼女はそのデリヘルを1年で辞めた。理由は50代後半の客に、専属の愛人にならないかと誘われたからだ。

「1回3万円くらいで会うようになりました。最初の約束で本番はなかったんですけど、やっぱり途中から求められるようになってきましたね。もちろん拒んでました。そうしたら、2カ月くらいして、『妻にバレた』と連絡が来て終わりました」

 そろそろ大学3年という時期に、カオルは性病になることが怖くなり、風俗からは一旦距離を置く。その際にガールズバーで働くことにしたのだが、やはり男性との会話が苦手で、3カ月と持たなかった。

 学校でも数回、合コンに誘われる機会はあったが、「私自身、男の人と一緒に過ごして、そんなに楽しいとは思えなかった」と、異性とうまく付き合えないことを明かしている。そしてカオルは自嘲気味に呟く。

「気持ち的に、男の人に恋愛感情を抱くのは難しいかなって思います」

©iStock.com

私にも存在意義がある…

 だがその反面、男性との“カラダ”の接触については、それほど抵抗がない。

「体を触られたりとかキスだとか、あんまり嫌じゃないんです。人に尽くすのが好きというか、相手が興奮してくれるんなら、私にも存在意義がある、みたいな……。それって、まるっきり承認欲求なんでしょうね」

 まずは金銭的な動機で風俗の仕事を始め、そこでの行為にそれほど抵抗がないことに気づく。そのため無感覚で続けているうちに、徐々に「自分が必要とされている」との、承認欲求を満たす感情が侵食してきたのだろう。

 大学3年の半ばからは、教員資格を取るための教育実習を受け、続いて就職活動に忙殺されて風俗の仕事を控えていたカオルは、就職が決まった大学4年の夏からオナクラで働くようになる。そこは個室内での“手コキ”によって、男性を射精に導く風俗店である。やはり彼女が“気楽な仕事”として選ぶのは風俗業だった。

 そして大学卒業の直前である2月から、「SMに興味があって、いじめられるとどういう感じかなって思ったんです」と、処女でSMクラブでの仕事に至ったというのが、私がすでに表に出していた内容である。

 だが、ここでも彼女について伏せている事柄があった。この件での取材が終わり、雑談になったところで、「なんか私、男の人に興奮しないんですよね」と口にした彼女が、言いにくそうにあることを切り出したのだ。