「いま、女の子と付き合ってるんですよ」
「……いま、女の子と付き合ってるんですよ」
予想もしない発言に驚いて相槌だけを打つと、カオルは続けた。
「だから、もとからそんなに、男の人に対して性的に興奮したりしないのかもしれないですね」
私は尋ねた。
「女の子と付き合ってるのは、いつ頃から?」
「うーん、大学に入って3年生のとき」
「相手はどういう人なの?」
「相手は……シホさん」恥ずかしそうに言う。
「え、××のシホさん?」
「そう」
ここで名前の挙がったシホという女性は、彼女が働くSMクラブに在籍している女の子だ。私自身は取材していないが、カオルと同い年でシホという女の子がいることは知っており、店でカオルの取材をしたとき、彼女から店で仲良くしている子として名前が挙がっていた記憶がある。
「シホさんは大学は別だったの?」
「一緒です」
「はーっ、そうなんだ」
「あと、就職先も一緒です」
「ええっ」
つまり、彼女たちは大学の同級生で同じ会社に就職し、密かに付き合っている同性のカップルであり、それに加えて、ともに異性を相手にするSMクラブで働いているということになる。その倒錯した世界に軽い混乱を覚えた。
「一緒に住んでるの?」
「いや、一緒には住んでないです。私が実家なんで」
「そうすると、彼女とのセックスはどこでするの?」
「うーん、たまに親が祖父母の家に行っていないときがあるんで、そのときにうちに呼んだりとか、ふつうにホテル行ったりとか、あとシホさんは一人暮らしなんで、そっちに行ったりとか……」
「なんで一緒に住まないの?」
「いや、住みたいんですけど、うち犬を飼ってて、親も働いてるんで。犬の世話、誰がすんの、みたいなのがあるんです。両方とも一緒に住みたいとは思ってるんですけどね」
そこで私は、彼女がシホさんと付き合うことになるきっかけを尋ねた。
「まず大学に入って気が合う友だちって感じで、ほんとにずっと一緒にいて……」
「専攻とかは一緒なの?」
「そう。もう全部一緒です。それで3年生のときに私が合コンに何度か行ってて、相手の男の人と珍しくラインが続いたんですけど、そのとき私のなかで、でもなあ、この人と付き合うのかぁ~、でもなあ~、みたいに考えて、この人との未来が見えないって感じだったんですよ。ていうか、未来が楽しいものだと思えなくて、じゃあ私、誰が好きなんだろうって考えたときに、シホさんが頭に浮かんで、うーん、みたいな……」
初めて“した”とき
「どっちが告ったの?」
「それから一週間くらいして、私から。あの、うちに泊まりに来たんですけど、そのときにちょっと『好きかもしんない』みたいに言って。そうしたら向こうも、『いや、(私も)好きだったっす』って」
「相思相愛だったわけだ」
「でも向こうは、『カオルさんが合コン、合コンとか、彼氏作んなきゃとか言ってたから、なんか(好きとは)言っちゃダメだなって思ってた』って」