「戦場から風俗まで」をキャッチフレーズに国際紛争、大規模自然災害、殺人事件、風俗業界の取材を行ってきた小野一光氏は、かつて20年以上、毎週1人の割合で風俗嬢のインタビュー取材を続けていた。
性暴力の記憶、毒親、貧困、セックスレス――。それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たちは一体何を語るのか。
ここでは小野氏の新著『限界風俗嬢』(集英社)の一部を抜粋。処女でSM風俗嬢デビュー、その後パパ活を一時的に経験、その間も同性の彼女シホさんと交際を続けていた女性・カオルさんのエピソードを紹介する。(全5回の5回目/最初から読む)
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私にはシホさんがいるから
「セックスで気持ちよくなれる男性とは、今後出会えるのかねえ?」
「無理でしょうね。でも、私にはシホさんがいるから」私は相槌を打った。すると彼女は唐突に切り出した。
「パパ活を止めようと思ったのは、昨日の帰り。もうヘトヘトになって乗った電車のなかで、バッグのなかにあるもらったおカネを見て、私、なにしてるんだろうって。そんな気持ちになって。もうダメだあ、耐えらんなーいって思って。止めようって思ったんで……。だから、しばらくはやんないと思いますけど」
「ほとぼりが……」
「ブフォッ……」
カオルは噴き出す。そして……。
「んーっ、でもやっぱりまあ、オチンチンがあ、かわいいなあーって思うんで、たまに触りたいなあ、ヌフフフ……って思うときがあるんで、だからやりたくなるときもあるかもしんないっすね」
「そうだよねえ~」と追従した直後に、ふと思いついたことを尋ねる。
食事だけで1万円もらえるから、いいじゃん
「あのさあ、パパ活についてはシホさんに話してるの?」するとカオルは、参ったなあという顔で笑った。
「ウフフ、いや、最初は隠してたんですよね。まあでも、バレちゃってぇ。ラインの通知をたまたま見られちゃってぇ、(交際クラブの)オファーが入りました、みたいの。いやもう、ほんとに運が悪くてぇ、たまたま来たオファーを、たまたま私のスマホのアラーム(通知音)が鳴ってるのを、たまたま見ちゃってぇ、もーう、超運悪かったです」
「どうなったの?」
「いや、『なんか最近、新しいこと始めた?』って聞かれて、『じつは……』、みたいな。イヤハハハハ。でもさすがに大人の関係をしてるとは言えなかったんで、『お食事だけだよ~』って。『食事だけでぇ、1万円もらえるから、いいじゃん』ってぇ……」