「風邪を引いたらまず医者へ」はもう古い!? 国のセルフメディケーション政策で、おなじみの病院薬は次々に市販化、処方薬と市販薬の間の壁は融解しつつあります。
薬剤師が解説する『その病気、市販薬で治せます』(新潮社)より一部抜粋して激変する市販薬の最新成分と効能を紹介します。(全2回の1回目/後編を読む)
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「正露丸」は何の薬?
日本で最も有名な下痢止めと言っても過言ではないのが、「正露丸(せいろがん)」ではないでしょうか。しかし、この100年以上の歴史を持つ薬については誤解も広く出回ってきたようです。私自身も以前、「正露丸って消毒剤なんでしょ?」と友人から言われてギョッとした経験があります。
“ラッパのマークの正露丸”の製造販売元である大幸薬品によると、「正露丸は防腐剤だから飲むのは危険」「発がん性がある」などと主張する人がいるのだそうです。正露丸の主成分は【木(もく)クレオソート】という成分ですが、これを防腐剤として使われる「石炭クレオソート」と混同している人がいるというのです。しかし、木クレオソートは原木由来の成分、石炭クレオソートは石炭由来の成分であり、両者はまったくの別物です。
もう一つの誤解は、正露丸は腸内の善玉菌まで殺してしまうというもの。しかし、木クレオソートはほとんどが胃で吸収され、腸に届く量は微量だとするデータがあり、腸内菌の環境にほとんど影響を与えないそうです。
近年の研究では意外な発見も進んでいて、正露丸は胃の寄生虫アニサキスに効果を発揮する可能性もあるようです。木クレオソートがアニサキスの動きを鈍くするようで、正露丸によってアニサキス症状の強い胃痛が消えたという報告があります。
これらはいずれも大幸薬品による研究で、まだまだ十分な検証とはいえませんが、頭の片隅に入れておくと良いかもしれません。
ちなみに、正露丸は大幸薬品だけでなく、複数のメーカーから出ています。ラッパ以外にもいろいろなマークの正露丸があるのです。主成分である木クレオソートの量を始めとして、使用している薬効成分は微妙に異なります。
繰り返しますが、下痢の対策は第一に水分補給。そして安静にすること。薬の出番は限られているということを念頭に入れつつ、相談していただくのがよいと思います。