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 7月2日、私は高見泰地七段と同じ日に対局があった。高見はABEMAトーナメントで藤井とチームメイトなので、昼休みに「王位戦第1局はどう見る?」と聞いてみた。

「僭越ながら藤井さんにとってはとても不出来な将棋だったと思います」

「この大敗は次の対局(棋聖戦第3局)に影響すると思う?」と聞くと、「いや、藤井さんは気持ちの切り替えが早いから大丈夫でしょう」と断言した。

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ABEMAトーナメントではチーム「最年少+1」で藤井とチームメイトの高見(中央) ABEMAより

7月13~14日・王位戦第2局(豊島先手) 【豊島、意表の早繰り銀】

 豊島は得意の角換わり、だが腰掛け銀ではなく、「早繰り銀」を採用した。

 豊島が角換わりに誘導したのは過去80局近くあるが、早繰り銀にしたのはたった3局しかない。しかも直前は2020年の竜王戦第2局で、その将棋は挑戦者の羽生善治九段に巧みに指され負けているのだ。

 藤井は意表をつかれた。

 局後の感想で、「早繰り銀はあまり想定していなくて。少し手探りな感じだったんですけど」と想定外だったことを認めた。藤井も早繰り銀にして先攻したが、これは豊島の研究範囲だった。藤井が自陣角から攻めた瞬間にうまい切り返しを見せる。豊島はリードを広げ、そのまま押し切るはずだった……。

 しかし、藤井は信じがたい力を見せた。相手の大駒や桂を封じてチャンスを待ち、そしてミスに乗じて反撃し、ソッポに行く金の妙手で流れを引き寄せ、最後は自玉の安全度を読み切り、持ち駒をすべて使って詰ませた。豊島相手にこういう勝ち方ができる棋士がいるのか、とプロの棋士たちは一様に驚いた。

「将棋世界」9月号で渡辺明名人がこの将棋についてこうコメントしている。

「これ勝ちでしょ、という常識的なラインが藤井さんには通用しないんです。『ああ、これを負けるのか』と豊島さんは思ったはずです」

 渡辺との棋聖戦五番勝負についても何人かの棋士に話を聞いた。私と同年代の棋士は「彼の終盤は違うゲームを見ているようだ」と感嘆した。防衛の1局となった第3局では、飛車をただ捨てして馬筋をそらせて詰ますという神業を見せたが、鈴木大介九段は「あの飛車捨てなんて、一生に一度でも指せたら嬉しいという手じゃないですか。それを1分将棋で指すんだからねえ」となかば呆れた口調で語った。

7月21~22日・王位戦第3局(藤井先手) 【藤井、1年ぶりの角換わり、絶妙の手渡し】

 ここまでは豊島の工夫ばかり目立ったが、藤井も作戦を変えた。角換わり腰掛け銀を1年ぶりに採用したのだ。とはいえ豊島にとっては想定内だった。9筋位取らせ作戦から豊島やや有利で局面は進む。